マーケティングと行動心理学 その14―ツァイガルニク効果―
TV番組などで、「この後、衝撃の結末が…続きはCMの後すぐ!」といったワードで中断され、続きが気になって仕方なくなったことはありませんか?それは「ツァイガルニク効果」という、終えてしまった事柄より、途中で中断してしまった事柄のほうがよく記憶に残るという心理効果が働いているからです。世の中のweb広告の半分はこの「ツァイガルニク効果」が使われていると言われるほどビジネスに密接に関わる心理効果。今回はこの効果をご紹介します。
1. ツァイガルニク効果とは?
2. ツァイガルニク効果、3つのメリット。
3. ツァイガルニク効果のデメリット。
4. 今回のまとめ
ツァイガルニク効果とは?
「ツァイガルニク効果」とは、達成できた事柄よりも、達成することができなかった事柄や中断している事柄の方を強く覚えている、という現象のことを指します。簡単に言ってしまうと「最後までやり遂げたい」「やり遂げなくては気持ち悪い」という気持ちになるということです。例えばテストなどでも、解答できた問題よりもできなかった問題の方を思い出す傾向にあるそうです。これは「正解したかった」という気持ちがツァイガルニク効果を生じてしまった一例です。
名前の由来は、ソ連(現ロシア)の女性心理学者であるブルーマ・ツァイガルニク氏が提唱した理論であったことからそう名付けられました。彼女は実験で検証を試みました。それは被験者に教師や学生、子供など164名にいくつかの作業を行わせます。パズルをやらせたり、折り畳まれた箱を組み立てたり、粘土細工を作るなどの簡単な作業です。こういった軽作業を20個ほど用意し、クリアできたら次の作業というように、ランダムで作業を行わせました。実験中、彼女は無作為に被験者の作業を中断させ、別の作業をやらせる指示を定期的に出しました。そして実験後、被験者に割り当てられた20個ほどの作業のうち、覚えている限り書き出すように命じました。単純に考えれば作業時間が長く継続できた「完遂できた仕事」が記憶に残りそうなものですが、結果は全くの逆で、被験者たちが作った作業リストの上位は、ほとんど「中断された作業」で占められていたそうです。この実験により「中断された課題や未完の課題は、達成済みの課題より想起されやすい」という結論に至り、この理論を提唱するようになりました。
ツァイガルニク効果、3つのメリット。
①生産性の向上
仕事が中途半端に中断されてしまうと「キリのよいところまで終わらせたい」という欲求が発生し、割り込んだ仕事を早く終わらせたくなります。割り込んできた仕事が多かったり大きかったりするほど、全体の優先順位や手順などを見直し、少しでも早く終わらせる方法がないかを考え臨みます。結果、生産性の向上につながるのです。
②モチベーション向上
ツァイガルニク効果で生産性が向上すると、仕事に対してのモチベーション維持や向上にも良い効果が得られます。限られた時間内により多くの仕事がこなせれば、仕事自体にもやりがいが生まれ、モチベーションもアップします。また、人はどうしてもキリのいいところまでやりたくなるのですが、そうすると脳の中では完結したこととして忘れてしまい、次に取り掛かるのが億劫になってしまいます。中断した仕事があると終わるまで適度な緊張感が続きます。あえて途中で切り上げることで記憶に強く焼き付けられ、翌日続きを再開した時には良い緊張感で取り掛かることができたりもします。
③Webビジネスに効果的
ツァイガルニク効果は、webビジネスにおいて非常に大きな効果を発揮します。あえて不完全あるいは中途半端にさせてユーザーを引き付けるという手法です。冒頭でお話した世の中のweb広告の半分はこの「ツァイガルニク効果」が使われていると言われる所以がここにあります。例えばwebニュースのコンテンツが最初の1ページ目だけは無料で読めるのに、2ページ以降は会員登録が必要で有料になるというものがあります。1ページ目を読んでしまっているので、やはり続きが気になってしまいます。アプリで読めるマンガも同様で、1話や1巻分が無料なので読んでしまうと次が読みたくなり、ついつい有料会員登録をしてしまう。知りたい内容や興味の対象を一旦遮断されることで、より強く気になってしまうというのは、ツァイガルニク効果の基本的な原理であり、webビジネスの性質上、この原理が非常に相性が良いと言えます。
ツァイガルニク効果のデメリット。
この効果にはメリットだけでなくデメリットもあります。ツァイガルニク効果を狙って仕事をあえて中断させた場合、緊張感が残ると同時に仕事が未完になるためストレスを感じます。ストレスへの耐性が低い方や、仕事に対する意識が高い方は、こういった中断した仕事が多いほどストレスも大きくなってしまいます。また仕事が完結できない状況が続くと、仕事に対するモチベーションの低下につながります。自分で自分の仕事量を把握して判断した場合はそこまでのストレスにはなりませんが、例えば上司が部下のツァイガルニク効果を狙って仕事を中断させるケースは、相手の仕事量や気質に十分注意する必要があります。
今回のまとめ。
今回は「達成できなかったことや中断したものが記憶に残るツァイガルニク効果」を紹介しました。人はどうしてもキリの良いところまでやってしまいたいと無意識に考えてしまうことが多い生き物です。今まで当たり前のように考えてきたことも、このツァイガルニク効果を知った今、必ずしも正解が一つではないことがわかりました。「あえて中途半端なところで中断することで、業務の生産性が上がる、あるいは続きが気になって高い集中力でリスタートできる。」教えてもらわなければなかなか一人で出せる結論ではありませんが、視点が変わって思ってもみない良い結果が現れることもあります。このツァイガルニク効果をうまく活用して自身の幅を広げてみてください。
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