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マーケティングと行動心理学 その18―ドア・イン・ザ・フェイス―

先回「フット・イン・ザ・ドア」という営業テクニックとしてもよく使われる心理効果を紹介しましたが、この効果の対とも言える心理テクニックに「ドア・イン・ザ・フェイス」というものがあります。とっても似ていて、どちらも営業テクニックとして高い効果があるものの、この2つの効果には決定的な違いがあります。今回はこの「ドア・イン・ザ・フェイス」について説明していきます。

1. ドア・イン・ザ・フェイスとは?
2. ビジネスシーンでの活用事例
3. 3つの注意点
4. 今回のまとめ

ドア・イン・ザ・フェイスとは?

ドア・イン・ザ・フェイスは、日本語で「譲歩的要請法」と呼ばれ、依頼や交渉をする際に、最初に難易度の高い要求を相手に求め、それを一度断らせ、徐々に要求の難易度を下げていく説得法のことを言います。この言葉は、英語で「門前払い」を意味する「shut the door in one’s face」が語源であると言われています。わざと門前払いにあってから、要求を下げて再度チャレンジするということで「ドア・イン・ザ・フェイス」と呼ばれるようになったそうです。
この効果のメカニズムは最初の要求を断らせることによって罪悪感を感じさせるところにポイントがあります。人は断るという行為に対し、「断ってしまった」という罪悪感を抱きやすいとされています。と同時に「このままでは気持ちが悪い」「今度はこちらが譲歩しなければならない」といった心理が働くと考えられています。これは以前紹介しました「返報性の原理」という心理効果を利用しています。詳しくは「マーケティングと行動心理学 その3―返報性の原理―」を御覧ください。この譲歩の心理を応用することで、当初から狙っていた要求を承認させるという巧みなテクニックがドア・イン・ザ・フェイスです。
冒頭で触れた「フット・イン・ザ・ドア」との違いはなにかというと、ドア・イン・ザ・フェイスが大きな要求から始めるのに対し、フット・イン・ザ・ドアは小さな要求から始めるという点です。要求のスタート地点が違うだけなのでよく似ていると思われるのですが、応用されている心理効果は全く別物です。先述のドア・イン・ザ・フェイスが「断ってしまった」ことの罪悪感を利用した「返報性の原理」の応用であることに対し、フット・イン・ザ・ドアは自分の態度や言動を一貫させたいという「一貫性の原理」の応用となっています。内容をしっかり理解し状況によって使い分けることができるようになれば交渉事を今まで以上に有利に進められるようになるはずです。

ビジネスシーンでの活用事例

値段交渉

例えば、30万円の商品を受注したいという目標があったとします。顧客の予算は20~30万円ほどだったとして。まず、顧客に商品を説明する際に50万円の商品をおすすめします。顧客側は、予算をオーバーしていることもあり商品の購買を断ります。そこで次に、目標である30万円の商品をおすすめします。そうすることで、相手に最初の商品より値引いてくれた印象を与え、30万円の商品受注が決まりやすくなります。

プラン選択

例えば、外国語の翻訳サービスを販売しているとします。まず、すべての国の言語に対応している高額なプランAを提案し、一度断られてしまったとします。次に、英語のみの翻訳サービスである比較的安価なプランBを提案することで、「一度要求を断ってしまって申し訳ない」「安くなった」といった印象を与えることができ、受注につながりやすくなります。

期間交渉

例えば、商品の納期が相手の提示した期間に間に合わなそうな場合、確実に納品できる時期よりも少し遅めの時期を相手に伝えます。3営業日の遅れに対して、「1週間遅れる可能性がある」と伝えるなど。そして、二度目の要求で確実な納期を提示します。すると相手は「急いでくれている」「こちらの都合に合わせようとしていて申し訳ない」などといった感情を抱きやすいため、要求を受け入れてくれる可能性が高まります。

3つの注意点

無理難題を言わない

ドア・イン・ザ・フェイスを使うためには最初の要求を断られる必要があるからといって、ハードルがあまりにも高すぎる要求をすると「馬鹿にしている」「ふざけている」と思われてしまいます。また逆に自分の本来の要求に近すぎる要求でもドア・イン・ザ・フェイスのテクニックが使えなくなります。そのため、はじめに伝える欲求は低すぎず高すぎない「ちょっとそれは厳しいな」といった丁度いい要求を考えることが必要です。

沈黙の時間を作らない

ドアインザフェイスは相手の「罪悪感」を利用したテクニックなので、二度目の欲求を伝える際に時間が空いてしまうと相手の罪悪感が薄れてしまいます。相手に「断ってしまって申し訳ないな」という気持ちが残っているうちに、素早く自分の要求を通しましょう。

同じ相手に何度も使わない

交渉がうまくいくからといって同じ相手に多用していては、相手に気付かれてしまいます。罪悪感に付け込まれたことを知ると不愉快になってしまう可能性も高く、本来の目的が通らなくなるどころか信用を大きく失うことにもなりかねません。相手との関係性や交渉頻度を踏まえた上で、効果的と思われる場面で活用しましょう。

今回のまとめ

今回は、ドア・イン・ザ・フェイスの注意点や活用事例について紹介しました。一言に営業と言っても、ただストレートに「契約してください」と言うだけでは、相手もなかなか応じてくれません。「ドア・イン・ザ・フェイス」「フット・イン・ザ・ドア」といったテクニックを利用して交渉を進めることで、自分に有利な状況を作り上げることが重要です。ただし、あまり露骨に使ってしまっては、相手からの信頼を損ねてしまいかねません。相手や状況、要求の加減を見極めて使うようにしましょう。

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