「返報性の原理」とは?ビジネスシーンで活用する方法

人に何かをしてもらったとき、「お返しをしないと申し訳ないな」と感じたことはありませんか?
それは「返報性の原理」という心理効果が働いてるからです。この心理は、人が本来持っている義理や人情といった感覚に近い、ごく自然な現象です。
特に日本では「お礼・返礼」の文化が根付いていますから、そういった教育を受けた人がほとんどでしょう。受け取った恩を、時にはそれ以上の恩で返したいと感じる…そんな気持ちもまた、返報性の表れです。
今回はこうした心理のビジネスの現場での活用方法や注意点をご紹介します。
「返報性の原理」とは?
社会心理学者であるロバート・B・チャルディーニ氏の著書「影響力の武器」で紹介されたことで話題となった心理効果で、「人は何かをもらうと、自分も相手に何かを返すべきと思う」という心理現象を指すものです。
身近で例えるなら、バレンタインデーのイベントが思い浮かびます。チョコレートをもらったら、お返しをしなきゃ悪い気持ちになりますよね?たとえ義理だとわかっていても「好意」を受け取った以上は「好意」を返そうと感じます。
「返報性の原理」は、チャルディーニが多数の社会的行動や実験を通じて明文化した心理的な原則であり、文化的な贈与の慣習や人間関係の基礎構造に根ざした普遍的な法則と言えます。
そして、この「返報性の原理」は「好意」に限った話ではなく、その内容から大きく4つに分類されます。
好意の返報性
誰かから好意を受けた場合、それに対してお返しをしたくなる心理。
例:
・誕生日プレゼントをもらったら相手の誕生日にもプレゼントを用意したくなる
・商談時に地元の銘菓を持参すると、相手も「こちらも何かお返しできるか考えないと…」という心理が働く
「先に与えること」で相手の心を開き、行動の変化へ導く力があります。マーケティングでは、サンプル配布やギフトマーケティングなど「ギブ・ファースト(先に価値を提供)」の戦略と相性が良いです。
敵意の返報性
攻撃や裏切りなど向けられた敵意を仕返ししたくなる心理。
例:
・同僚に挨拶したが無視されたとき、次からこちらも無視する
・SNSで批判的なコメントが来たとき、攻撃的な返信をしてしまう
ビジネスにおいては、苦情対応などで意図せずトラブルを招くこともあるため意識的にコントロールが必要です。
譲歩の返報性(ドア・イン・ザ・フェイス)
相手が一度大きな要求をしてきたあと、それを引っ込めて小さなお願いをすると、「応じなければ」と感じる心理。
例:
・営業で初めに上位プラン(8000円)を提示する→相手が渋ったら「それでは、お試しの5000円プランもあります」と提示
・3日で納品してほしいと依頼→難しいと言われたら「では1週間以内で構いません」と譲歩し、承諾を得る
「一度譲る」行動が、相手に「自分も答えなければ」という心理的圧力を与えるため、マーケティングや営業、交渉の場で有効です。
自己開示の返報性
相手が人文の情報(感情や本音など)をオープンにしてくれると、自分も心を開きやすくなる心理。
例:
・上司が自分の弱みや悩みを話すと、部下も安心して悩みを相談しやすくなる
・営業マンが商談で自分の失敗談を語ると、相手も「実はうちもトラブルがあって」と本音を出してくれる
営業・接客・マネジメントなど、人間関係の構築が大切なシーンで有効な手法です。
「返報性の原理」のビジネスシーンでの活用事例
返報性の原理は、マーケティングや営業などあらゆるビジネスシーンで活用されています。いくつか活用事例を紹介します。
好意の返報性の活用事例1「スーパーの試食コーナー」
返報性の原理を使った代表的なマーケティングが「無料お試し」です。身近な例が、スーパーマーケットなどの試食コーナー。店員から勧められて試食すると、「食べさせてもらったのだから、買わないと悪いかな」という気持ちになりますよね?
「無償で商品をもらう」ことによって返報性の原理が働き、お返しをしたい・商品を購入したいという心理を狙っています。
好意の返報性の活用事例2「無料セミナーの提供」
BtoB商材を取り扱う企業でよく見受けられるのが、「法人顧客向け無料セミナーの開催」です。セミナーの内容は最新の業界動向や課題解決策に関するもので、参加者にとって有益な情報が得られる構成となっています。その後自社の関連サービスを自然な流れで紹介し導入の検討に繋げます。
顧客に役立つ情報を先に「無償で提供する」ことで信頼感を獲得し、商談への心理的なハードルを下げる「好意の返報性」が働きやすくなります。
譲歩の返報性の活用事例「塾のコース提案」
学習塾に入塾希望の保護者に対して、最初に「週3回+個別指導付きの総合コース(月額3万円)」を提案します。この時点で保護者から「ちょっと高い…」という反応があった場合には、すぐに「では、まず週1回の通塾のライトコース(月額8,000円)から始めてみませんか?」とハードルの低いプランを提示します。
最初に高めの提案を出してから一歩下げたプランを提示する流れは、相手に「譲歩された」という印象を抱かせるので、「受け入れ欲」を引き出す戦略として機能します。
自己開示の返報性の活用事例「企業公式SNS“中の人“発信」
企業のXやInstagramで、担当者が「中の人」として個人的な気づきや失敗談を交えた投稿を行うと、フォロワーの信頼感が高まりコメントやリツイート率が向上するということがあります。
これは、人間味のある投稿が返報性を呼び、ユーザーも気軽に自身の体験や感じたことを気軽にシェアするようになるからです。
「返報性の原理」を活用する際の使用上の注意点
返報性の原理を活用した行き過ぎた例として、一昔前ですが新聞の勧誘があげられます。「洗剤をプレゼントするから、新聞を取ってくれませんか?」という攻撃です。
相手に有無を言わせずプレゼント攻撃をすれば、その後の要求が通りやすくなる。これも返報性の原理といえますが、もし恋愛に置き換えたとしたらどうでしょうか?
プレゼント攻撃や親切を与え続ければ、たとえ嫌われていたとしても義務感からデートの誘いに応じる…そんな状況が理屈の上では成立していまいます。よく考えるととても恐ろしい原理ですね。とはいえ、このようなやり方は長続きしません。なぜなら人は、「好意」を返すことを負担に感じるようになると、そもそも“好意を受け取らない”ように回避するようになるからです。
このように、返報性の原理は、使い方を誤るとトラブルのもとになったり、むしろ逆効果になったりする恐れがあるため、実行するには特に以下の3つのことに注意する必要があります。
見返りを求めすぎない
見返りを求めすぎると相手に下心を感じ取られ、返報性の原理が働きにくくなることがあります。ビジネスシーンだと特に信頼感を失うことにもなりかねません。「貸し」をつくるといっても見返りを期待しすぎず、純粋に「喜んでもらいたい」という気持ちが大切です。
タイミングや表現にも配慮し、押し付け感を避けるようにしましょう。
「恩着せがましさ」を避ける
関係性に見合わないようなものや、相手が求めていないものを贈ってしまうと、かえって相手にプレッシャーを与えたり、警戒されてしまい逆効果になることがあります。
相手の状況や関係性に見合う「適度な与え方」を意識し、迷惑にならない量や頻度、タイミングを心がけましょう。
長期的な信頼関係を全体とする
短期的な見返りを狙う使い方は、持続的な関係構築には不向きです。何度も小さな好意やサポートを重ねて信頼感を育てることが大切です。
このように、返報性の原理に効果を期待しすぎると、相手の気持ちを無視した行動をとることになりかねません。相手を不快にさせないことが大前提であることを忘れないようにしましょう。
まとめ
たとえ「返報性の原理」という言葉を知らなかったとしても、私たちは仕事や恋愛、人間関係の中で、無意識のうちにこの心理を日常的に使っているはずです。
それほどまでに、返報性の原理は私たちの行動に深く根づいた強力な心理法則であり、マーケティングや営業活動にも積極的に取り入れたい考え方です。ただし、返報性の原理はあくまで「信頼と関係性を築くための手段」であって、相手を操作するための道具ではありません。
この点を忘れずに、マーケティングや人間関係づくりに、誠実かつ効果的に活用していきましょう。