投稿日:|更新日:

マーケティングと行動心理学 その8―プロスペクト理論―

あなたはこれから、あるくじ引きイベントに参加するとします。くじ引きの種類は2種類。
あなたはどちらのくじを引きますか?

A. 100%の確率で10万円が貰えるくじ
B. 50%の確率で30万円が貰えるが50%の確率で何も貰えないくじ

あなたがよほどのギャンブラー気質でなければ、Aのくじを引く人が大半ではないでしょうか?でも実は期待値を計算するとAのくじが10万円なのに対し、Bのくじは15万円。つまりBのほうが5万円多く利益を上げられる可能性があるということです。しかし人々は皆Aのくじを引きます。これは1円も貰えないというリスクを避けるため、合理的な判断ができなくなる「プロスペクト理論」という心理効果が働いているからです。ビジネスシーンでもよく使われる効果です。今回はこのプロスペクト理論についてご紹介します。

1. プロスペクト理論とは?
2. プロスペクト理論3つの活用例
3. 今回のまとめ

プロスペクト理論とは?

プロスペクト理論とは、行動経済学者のダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏が、1979年に提唱した学説です。予想される利害額や確率などの条件によって、人間がどのように意思決定を行なうのかをモデル化したものです。くじ引きの例に上げたように、我々の意思決定は、感情や感覚によって「ゆがみ」を生じさせ、必ずしも合理的な判断をするとは限らないということを証明した理論です。このプロスペクト理論には大きく2つのタイプが存在しており、先程あげた例のように、1円も貰えないかもしれないというリスクを避けることを考える「リスク回避型」「損失回避型」の2種類です。損失回避型も同様にくじ引きの例で例えるなら、

C. 100%の確率で10万円を支払う
D. 50%の確率で30万円を支払うが50%の確率で支払わなくて良いくじ

こう尋ねると、殆どの場合でDのくじを引くという方が多いそうです。先程と同様、損失の期待値が高いのはDなのでCを選ぶ方が合理的と言えますが、確実に損失が出るという状況を避けようと判断にゆがみが生じます。これが「損失回避型」。また、私たちには「得をした嬉しさよりも、損をしたガッカリ感を強く感じる」という心理傾向があります。たとえば、5万円をもらったときの幸福感より、5万円をなくしたときのがっかり感のほうが、大きく心を揺さぶられませんか?他にも総額の違いで同じ金額なのにまるで価値が変わってしまうこともあります。例えば5万円の差額は一緒ですが、95万〜100万の差額5万円と5万〜10万の差額5万円では、後者のほうがこだわってしまったりしませんか?総額が上がると価値を感じにくくなるという心理傾向がある。これらの感情や感覚によって我々人間が非合理的な結論を出してしまうメカニズムを総称してプロスペクト理論と言います。とても複雑な理論ではありますが、この理論を展開したダニエル・カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞しているほど、行動経済学において非常に重要な理論となっています。

プロスペクト理論3つの活用例

フィア・アピール

プロスペクト理論によると、得するよりも損することを重く評価する傾向があります。この損失回避性を応用したのが「フィア・アピール」です。フィアとは英語で「恐怖」のこと。「この商品を買わないと損しますよ」というように、顧客が被る損失をアピールし、購買意欲を高めることを狙う交渉テクニックです。たとえば、「この保険に入れば、もしもの時に安心です。」と言うよりも、「もしもの時、家族はいったいどうなるのでしょうか?」と宣伝したほうが心を揺さぶられます。いたずらに危機感を煽るのは良くありませんが、伝え方の工夫をすることで効果的な宣伝文句になるのではないでしょうか。「数量限定」「期間限定」というのもフィア・アピールの一種です。

リスク・リバーサル

顧客の不安を取り除くことで購入を促す技術が「リスクリバーサル(リスク保証)」です。私たちが商品を買おうとするとき「買って損したらどうしよう」という不安がつきものです。せっかく商品に魅力を感じていても、不信感が拭いきれず、購入に踏み切れない顧客も少なくありません。「返金保証」「分割払い」「カスタマーサポート」「修理保証」といったものが該当します。

フレーミング効果

プロスペクト理論を情報伝達に応用したのが「フレーミング効果」です。フレーミング効果とは、表現方法(フレーム)が違えば、受け手に与える印象も変わるという心理効果です。たとえば「90%のお客様がリピーターになっています」と「10%のお客様は二度と利用してくれません」とでは、意味こそ同じですが、まるきり違う印象を受けます。人は利益が出ている場合は安定志向になり、損失が出ている場合はリスク志向になるという心理を持っていますから「利益を伝えるなら確実性を、損失を伝えるならリスク表現」というルールを覚えておくだけで、商品説明や報告会議などで、きっと役に立つはずです。

今回のまとめ

今やプロスペクト理論は、どの業界のビジネスでも使われていると言えます。そうとは知らずに使われているケースもあるかもしれませんが、まずは意味や応用例について理解を深めましょう。また、他社と同じ方法でアピールしても、顧客の印象に残らない可能性があります。最大限アピールするためにも、競合他社の動向は常に把握し、自社のマーケティングにこの「プロスペクト理論」を反映させてみてください。

>関連記事
NEXT
「マーケティングと行動心理学 その9―ウィンザー効果―」
BACK
「マーケティングと行動心理学 その7―ディドロ効果―」