広告事例研究|社会問題に取り組む企業姿勢から学ぶ

2021年のカンヌクリエイティブフェスティバル(期間 2021年6/21〜25)が終了しました。今回のカンヌでも賞を受賞したクレジットカード大手のマスターカードのお話しです。同社は企業の使命として、「世界210を超える国と地域とのつながりを通じて、すべての人々にとって貴重な可能性を解き放つ持続可能な世界を構築すること」を掲げています。今回のコラムでは、そのことを体現している優れた広告キャンペーン事例を2つご紹介します。

1.マスターカードが目指すもの
2.事例① トランスジェンダーに配慮した世界初のカード
3.事例② 二酸化炭素の課題解決に向けたブラックカード
4.今回のまとめ

 

 

マスターカードが目指すもの

「お金で買えない価値がある。買えるものはマスターカードで」( “There are some things money can’t buy. For everything else, there’s MasterCard.” )という有名なテレビCM。耳にした瞬間、脳に記憶される優れたキャッチコピーです。1997年にこのキャッチコピーを生み出したのはマッキャン・エリクソンのアレン ケヴィンです。マスターカード以外にもマイクロソフト、ネスレ、ロレアル、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど有名ブランドを顧客とした敏腕広告マンです。

その後マスターカードは世界的にシェアを伸ばし、真のグローバル企業と成長した2019年1月に慣れ親しんだロゴの変更を決意します。その狙いは「決済テクノロジー企業」から「ライフスタイルブランド」への転換のためというものでした。「マスターカードという名前よりも、ライフスタイルブランドというコンセプトを広く浸透させたいという狙いがあった」とのことです。時代の変化に合わせて、タブレットやスマホなどのデジタル端末での視認性を意識したシンプルなデザインとなり、ロゴマークから企業名を削除するという大胆な変更は綿密なプロセスの元、無事世界から好意的に受け入れられました。グローバル企業として、決済という「点」でのつながりではなく、ライフという「線」で世界の人々とつながろうとする企業戦略が伺えます。

 

事例① トランスジェンダーに配慮した世界初のカード

マスターカードは2019年17日、顧客がカードに記載す自身の名前を選択できる「トゥルー・ネーム・カード」(True Name card)の発行を発表した。同社によると、LGBTQIA+コミュニティの人々、特にトランスジェンダーやノンバイナリー(男性、女性に当てはまらないと認識する人)は、カードを使用する際、名前と容姿、性別などが一致しないことにより差別に直面することがあるとのこと。その際に嫌がらせや攻撃を受けたり、サービスを拒否されたりするなどの経験があるという。「トゥルー・ネーム・カード」ならカード所持者は法的な変更手続きを行わず、彼らが選択した名前に変更することができます。施策を紹介した動画の中にも出てくる「あなたのアイデンティティは否定されるべきではない」というフレースは誰もが反論できない真実の強い言葉です。このように海外では社会問題に取り組まない企業はもはや時代遅れでダサい、というところまで来ています。

先日の2021年カンヌでBrand Experience & Activation Lionsを受賞

■ 動画 https://www.youtube.com/watch?v=Drn9eJbyHeM

■ プレスリリース(2019年6月17日)
https://www.mastercard.com/news/press/news-briefs/it-s-time-to-enable-people-to-use-their-true-name-on-cards/

■ HP
https://www.mastercard.com/europe/en/aboutus/overview/pride.html

 

 

 

事例② 二酸化炭素の課題解決に向けたブラックカード

続いては2019年の事例です。マスターカードはスウェーデンのフィンテック企業(Doconomy)との共同開発で、二酸化炭素排出量によって利用制限がかかるクレジットカード「Do Black – The Carbon Limit Credit Card」を開発。2030年までに世界のCO2排出量を半分に削減するという国連が定めた目標に基づき、利用者が購入した商品が地球に与える影響とカード所有者を結びつけることで、カーボンフットプリントを可視化しました。

カーボンフットプリント(CFP)とは、Carbon Footprint of Products の略称で、商品 やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排 出される温室効果ガスの排出量を CO2 に換算して、商品やサービスに分かりやすく表示する 仕組み。

 

カード利用者が購入した製品やサービスごとにCO2排出量を自動計算して排出量状況を表示する仕組によって利用者は自身の経済活動によるCO2排出量を知ることができ、地球環境にいかに貢献できているかを数字で知ることが可能となります。また、上限を超えた場合にはカードの利用が制限されるなどかなりストイックな仕様となっており本気度が伺えます。企業がこのような取り組みを行うことで、環境保護の重要性を啓蒙することができます。マスターカードのチーフ・デジタル・オフィサーであるジョーン・ランバートは「私たちには、環境を犠牲にすることなく持続可能な経済成長を実現する責任があります。デジタル技術と革新的なパートナーシップは、世界的な課題の解決に真に役立つのです」と話しています。

 

2019年のカンヌでCreative eCommerceGrand Prixを受賞

■動画 https://www.youtube.com/watch?v=uNJwepeNdnY

■ プレスリリース(2020年10月20日)
https://www.mastercard.com/news/europe/en/perspectives/en/2020/purchasing-power-plus-carbon-footprint-tracking/

■ HP
https://www.mastercard.com/news/europe/en/perspectives/en/2020/purchasing-power-plus-carbon-footprint-tracking/

 

 

 

今回のまとめ

今回紹介した事例はマスターカードの海外での取り組みです。では、日本国内でマスターカードがどのような取り組みをしているか気になりますよね?
国内のリリース記事を検索すると、社会的貢献を意図とした目立った取り組みに関しては残念ながらとても少ない印象でしたが下記2つの記事が見つかりました。フォトコンテストの開催やスポーツ大会への協賛に象徴されるように、日本での同社の取り組みを見ると「プライスレス=感動」に置き換えている印象があります。これは日本がいわゆる平和で安定した生活が送れているからとも言えますが、日本に社会問題が無いわけではなく例えば「高齢社会」「自然災害」「フードロス」「ジェンダー」「いじめ」「自殺」「交通事故」「児童虐待」「環境問題」など思いつくだけでも多くの課題が残されたままになっています。これらは世界の社会問題と比べると急務ではないように見えるかもしれませんが、この国に生きる身としてこのような課題に早期に取り組むのは非常に有意義であると考えます。社会に利益を還元する、よりよい社会のために貢献するのが企業の使命であるならば、社会問題への取り組みをグローバル企業が率先して行うことでより消費者と線で繋がる強いブランドへと成長できるのではないかと思います。

 

■ Mastercard 、医療従事者支援を目的としてUberの乗車を各回最大2000円分無料提供
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000037691.html

■ 年末年始の外食需要が高まる時期に合わせて、Mastercard、国連WFPを通じて飢餓に苦しむ子どもたちへ学校給食を提供するキャンペーンを開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000028080.html

 

最後に紹介するのは、同社のマーケティングを牽引するマーケティング&コミュニケーション最高責任者兼ヘルスケアプレジデントのラジャ・ラジャマナールに関する貴重な日本語インタビュー記事です。マスターカードが「ブランド価値向上」のために意識したこと、取り組んだことが書かれており、今後自社のブランディングを考えている企業は参考になります。同社が行う様々な事例を見ると、とにかく施策の軸がぶれていないことが印象的で、その一番の理由は優れたキャッチフレーズ「プライスレス」の開発にあると分かります。同社の取り組みを見るとブランドの定義がいかに重要であるかが分かります。世界的ブランドのマーケティングトップが考える、これからのマーケティングを知ることができる良い機会になると思いますので参考にしてみてください。

■ 参考記事 【独占】ブランド価値成長率1位、米マスターカードCMOのプライスレスな改革
https://forbesjapan.com/articles/detail/31099/1/1/1