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今さら聞けない!ブランディング講座 その3―知覚品質―

さて、今さら聞けない!ブランディング講座も3回目になりました。1回目では、抽象的で曖昧な表現の多い「ブランド」「ブランディング」の定義について、せめてプロジェクトのメンバーにだけは腹落ちしやすい言葉で共通認識を持たなければならいとお話しました。そして2回目では、このブランドは誰に何を約束するのか?といったブランディングにおいて骨組みとも言える「ブランドの提供価値」についてお話しました。また、1回目と同様にブランドを支える全社員が腹落ちできるものであることが重要であるということもお話しました。詳しくは先回の第1回目コラム「今さら聞けない!ブランディング講座 その1―ブランディングって結局何ですか?―」と、第2回目コラム「今さら聞けない!ブランディング講座 その2―ブランド提供価値―」をごらんください。今回は、ブランディングを展開するに当たって、最も重要な考え方の一つとされており、価格競争から脱却し、ブランドの収益性を高める上で欠かせない概念だと言われている、知覚品質についてお話します。

1. 知覚品質とは何か?
2. 知覚品質の向上には「信憑性」がカギとなる。
3. 知覚品質の信憑性を作る具体的な21の手法。
4. 今回のまとめ

知覚品質とは何か?

知覚品質とは、ブランドに対して「生活者が認識している品質」のことを言います。これは単に製品の機能・性能だけでなく、信頼性やサービス、雰囲気なども含まれます。つまり企業側が考えている事実としての品質や客観的に測定できる品質などとは異なり、顧客が勝手に認識している品質のことを指します。第1回でもお話しましたが、企業のマーケティング担当者は、寝る間も惜しんでブランドのことを考えてしまうあまり「プロ化」を引き起こしてしまうことがよくあります。しかし一方で生活者にとって大切なのは「自分が理想とするライフスタイルの実現」であり、そのための手段でしかないブランドのことは、1日1分も考えていない。この「企業側」と「生活者側」の立場の違いこそが「品質」と「知覚品質」の違いを生み出しているというわけです。例えばメルセデス・ベンツについて。あなたはメルセデス・ベンツの品質について、どのような認識を持っていますか?メルセデス・ベンツは高級車であることから、多くの生活者は「高品質な車」という認識を持っています。皆さんも同じように「きっと品質は高いのだろう」というイメージを持っているのではないでしょうか?しかし、あなたはメルセデス・ベンツの代表的な車種の排気量やエンジン性能、あるいは装備内容について正確に記憶しているでしょうか?あなたがベンツオーナーでない限り、ひとつも言えない方のほうが多いのではないでしょうか?メルセデスベンツの具体的な品質については、ひとつも答えることができない。しかし「品質が高そうだ」という認識は持っている。これこそが「品質」と「知覚品質」の違いです。生活者側から見れば、事実としての「品質」はどうあれ、そのブランドを買うか買わないかは「生活者本人が認識している品質の高さで決まる」ということを忘れてはいけない。つまり例え皆さんが「わが社のブランドの品質は高い!」と声高に叫んだところで、生活者側の「知覚品質」が低ければ、事実としての品質はどうあれ、あなたのブランドは品質が低いとみなされ、購入されないことになってしまうということです。

知覚品質の向上には「信憑性」がカギとなる。

「弊社のブランドの品質は高いです!」と声高に叫んだところで、あなたのブランドの知覚品質は向上しない。というお話をしましたが、その理由は何だと思いますか?それは大きく2つあります。1つ目の理由は、生活者側の意識です。生活者側からすれば、既に世の中に出ているブランドであれば「どれも、それなりの品質は持っているに違いない」「それなりの品質は持っていて当たり前」という認識を持っています。生活者がそのような認識を持っている以上「弊社のブランドの品質は高いです!」と叫んでみても、それは生活者にとって当たり前のことであり、強いメッセージになり得ない。2つ目の理由は、信憑性に乏しいからです。あなたの競合ブランドで「弊社のブランドの品質は低いです!」と謳っているブランドが存在するでしょうか?恐らくそんな企業は存在しないはずです。だとすれば、あなたのブランドがいかに「品質が高いです!」と叫んだところで、生活者からみればそれは単なる自画自賛であり、信憑性を感じさせるに足る根拠が見いだせないのです。ブランドの知覚品質を高めていくためには、競合ブランドと比べて品質が高いと信じてもらえるだけの信憑性がカギとなるわけです。

 

知覚品質の信憑性を作る具体的な21の手法。

① 品質の実証

最もオーソドックスな方法がこれです。「百聞は一見にしかず」という言葉がある通り「実証」はブランドの知覚品質を高める上でもっとも効果的な手段です。例えばイギリスの家電メーカーであるダイソンのTVCM、競合の掃除機との比較を通して高い性能を実証しています。また、P&Gも「チャレンジJOY」と銘打って、タレントさんが様々な家庭に出向いて、台所用洗剤の品質の高さを実証するTVCMを流し品質を実証しています。ハウスメーカーの耐震実験の映像や自動車メーカーの衝突実験などもこれに該当します。

② 成分や原料のクオリティ

成分や原料を打ち出すのもまた、ブランドの知覚品質を高める上でよく使われる手法です。原料や成分のクオリティ自体が、ブランドの知覚品質の信憑性を高めることに直結することがあるからです。例えば、三ツ矢サイダーの事例では「水を磨く」というメッセージを通して、サイダーに使われる水の品質の高さを打ち出しています。なんだか他社のサイダーより良さそうに感じませんか?

③ シズル

俗に言う「シズル感」というやつです。あまり聞きなれないかもしれないが、広告業界でよく使われる用語で「リアルな感覚に訴える要素」という意味合いで使われることが多いです。例えはケチャップの事例で言えば、生活者は「水っぽいケチャップ」より「どろっとしたケチャップ」のほうが様々な栄養素やうまみ成分が凝縮されているような印象を受けるため、ブランドの知覚品質は高くなります。また、アサヒビールの「スーパードライ」では、必ずTVCMに水しぶきのカットが入ります。これもまた「鮮度が良さそう」と生活者に感じさせ、ブランドの知覚品質を向上させるためのシズル演出です。このように、ブランドの知覚品質は必ずしも理屈ではなく「感覚的な要素」で向上させることも可能です。

④ 製造現場の取り組み

一般的に製品は製造現場で作られます。よって、製造現場での取り組みを語るのもブランドの知覚品質を向上させる上で有効な手法です。生活者の関心事の一つである「誠実に作られている」「手間暇かけて作られている」ということが伝わると知覚品質が向上しやすくなります。例えば再春館製薬は「消える製造ライン」というTVCMで「毎日4時間かけて工場を洗浄している」という取り組みを伝えています。生活者から見れば「これだけ誠実な工場で作られている製品なら、その品質も高いに違いない」と認識し、その結果、ブランドの知覚品質は向上するといったカラクリです。

⑤ 産地や立地

場所が持っているイメージや特性をうまく利用して、ブランドの知覚品質を向上させる方法です。例えば、銀座には多くのジュエリーショップが存在していますが、その中に「銀座ダイヤモンドシライシ」というジュエリーショップがあります。もしこの「銀座ダイヤモンドシライシ」が「巣鴨ダイヤモンドシライシ」だったら、皆さんの中でブランドの知覚品質は大きく変わりませんか?巣鴨が悪いわけでは無いですがお年寄りの聖地と言われる場所のイメージと都会的で高級感のある銀座ではイメージが違いすぎます。

⑥ 製法

製法を打ち出すのも、ブランドの知覚品質を向上させる上で有効な方法です。例えばコーヒーのブランドであるネスカフェでは、独自製法として「挽き豆包み製法」を打ち出しています。これは丁寧に微粉砕した焙煎コーヒー豆をネスレ独自のコーヒー抽出液と混ぜ合わせて乾燥し、コーヒーの粉の中に封じ込める技術です。ネスレはこの技術によって「インスタントコーヒー」というジャンルの呼び名自体を「ソリュブルコーヒー」と変えブランディングを展開しています。

⑦ テクノロジー

先程の製法と重なる部分がありますが「テクノロジー」もまた、知覚品質を向上させる要素です。例えば、ダイソンの「サイクロンテクノロジー」や、マツダの「スカイアクティブテクノロジー」などの事例がそれにあたります。製造業でなくても、例えば英会話学校のベルリッツが打ち出している「ベルリッツメソッド」なども、方法論という意味でのテクノロジーにあたります。ちなみに当社も独自の販促分析に「モダンメソッド」と名付けています。

⑧ デリバリー品質

「デリバリー品質」とは、モノを生産してから生活者に届ける上での品質をいいます。例えば、アサヒスーパードライのTVCMで「原則製造後3日以内に工場から出荷」という内容のものをご覧になったことがあるはずです。これは「3日以内」「工場直送」を謳うことで「鮮度が良い分、品質が高そうだ」という認識を創ることに成功した事例です。他にも、味の素の「ピュアセレクトマヨネーズ」もまた「とれて3日以内の新鮮たまごのみを使用」と打ち出すことでデリバリー品質を伝え、ブランドの知覚品質向上を促しています。

⑨ 研究開発力

生活者は「研究開発力が高い企業の製品・サービスなら、品質も高いに違いない」という認識を持っています。例えば、Googleは研究開発力が高いイノベーション企業としての印象が持たれているので、Googleの開発したサービスは「きっとすごいに違いない」という期待を持って迎えられることになります。また、IBMもまた、人工知能「ワトソン」の開発などを通して研究開発力が高い企業という印象を持たれており「IBMはソリューション品質が高そうだ」という高い知覚品質の獲得に成功しています。

⑩ 希少性

「この世にわずかしかないもの」という認識を通して、ブランドの知覚品質向上に貢献します。例えば海外の高級ファッションブランドやジュエラーは、研究所や生産工場を「メゾン」と呼び、あたかも匠の職人やデザイナーが一つ一つ手間暇かけてクリエーションしているようなブランド連想を創っています。結果、高額であることも相まって「希少性が高そうだ」という認識を創ることに成功し、ブランドの知覚品質向上に成功しています。

⑪ 伝統

生活者は、伝統のあるブランドであればあるほど「品質が高そうだ」という認識を抱きます。なぜなら伝統があるということは、時代を越えて愛されてきた証であり、時代を越えて生き残ったブランドなら、それは良いものに違いないというブランド連想を抱くからだそうです。

⑫ 実績

生活者は「評価している人の数が多ければ多いほど、それは良いものに違いない」という認識を抱きます。また、実績は、どのような言葉にも勝る品質の証明だ。とも言われるほど効果的な方法です。例えばスマホアプリ業界では「ダウンロード数何千万人突破」などのメッセージをよく見かけます。また、映画の世界でも「ハリウッドNo.1」や「国内観客動員数何万人突破」などの広告をよく見かけますよね。

⑬ 社会的証明

企業が生活者に伝えようとするメッセージは、生活者からすれば自画自賛でしかなく信憑性に劣ります。そこで「第三者からの評価」を示すことで品質に対する信憑性が増し、ブランドの知覚品質向上に寄与していくのです。広告やTVCMなどで「モンドセレクション金賞受賞!」「グッド・デザイン賞受賞!」などのメッセージをご覧になったことがあると思います。これらが社会的証明にあたります。

⑭ メディアや著名人

多くの生活者から見れば、雑誌や著名人に取り上げられたブランドであるという事実は「トレンドを発信する側の先端層がその良さを認めた」と解釈します。その結果、そのブランドの知覚品質はぐんぐん向上します。あるスキンケアブランドは、積極的に自社商品をメディアやタレント事務所に売り込み、取り上げてもらえるごとにホームページで公開し「雑誌に取り上げられた回数」を更新し続けているそうです。

⑮ メタファー(隠喩・暗喩)

企業の立場からすると、どうしても品質を示す際には専門用語や数値比較を並べてしまいがちです。しかし生活者はその道の研究者ではないのだから、専門用語や数値比較はよく理解できず、リアリティを感じないことも多い。そこでこういった「たとえ」の技法が必要となるわけです。あるハウスメーカーでは、住宅展示場で窓ガラスフィルターを説明する際に「FBIでも使われているもの」という説明しているそうです。また、断熱材を販売しているある企業は「南極基地で使用されているものと同じ素材」という説明をしているそうです。東京ドーム何個分という謎の例えも元はここから来ているということです。

⑯ ユーザーボイス

生活者がモノを買おうとするとき、つい気になってしまうのが「実際に使用している人の満足度」です。インターネット上で多くのユーザーレビューが参考にされているのも、その心理の表れといえます。通信販売の世界では、この「ユーザーボイス」の有り無しで、レスポンス率は大きく変わることが実証されています。また、生活者にとっての価値を言い切れない場合、実際に使った方の感想でなら事実としてその価値を言い切れることもあります。自分と同じ等身大の利用者の証言は、その商品の良さに信憑性を与え、ブランドの知覚品質向上に貢献します。

⑰ スポンサーシップ

これは、イベントにスポンサー協賛することでブランドの知覚品質を向上させる手法です。ある腕時計のメーカーは、F1レースにスポンサードし、F1の公式時計となることで知覚品質を向上させました。ご存じの通りF1レースは様々なテクノロジーが競い合い0.1秒を争う厳しい世界です。そのようなレースで「公式時計」の役割を担うという事実は、それだけ精密で品質が高い時計である、という連想につながるわけです。

⑱ こだわりや哲学

皆さんは過去、日産自動車が倒産しかけたことがあることをご存じでしょうか?結果、日産自動車はルノーに買収されカルロス・ゴーン氏が社長として派遣されたのですが、その再建を期して投入された車種の一つが、スポーツ車であるスカイラインでした。当時から自動車業界は「環境性能」に移りつつあり、そんな時期にスポーツ車を投入しても、セールス拡大が見込めないことは容易に想像できます。それでも投入を決断したのは、日産自動車の本気を示すためとされています。倒産しかけた自動車メーカーの知覚品質は、ほぼゼロに等しい。そして、そのような車を買おうと考える生活者は、そう多くはなかったはずです。そのような苦境の中、日産自動車の技術のすべてを注ぎ込み、デザイナーのトップである中村史郎氏自らがTVCMに登場し「日産の真価を問う」というメッセージとともに投入されたのが「スカイライン」です。「日産は本気だ。」そう考えた生活者は、それ以降に市場投入される様々な車種に関しても「日産の本気」を感じとるようになり、その結果「ここまで本気でこだわった車なら、それは品質の良い車に違いない」という知覚品質の向上に成功したのです。

⑲ 専門性

ある専門分野を切り拓いてきたブランドは、その分野の専門家でありリーダーとして、高い知覚品質を獲得することができます。これは、ブランディングの世界の用語で「ソート・リーダーシップ(Thought Readership)」と呼ばれ、ブランドの知覚品質向上に極めて有効な考え方です。例えば化粧品のスキンケアブランドの一つに「ドクターシーラボ」というブランドがあります。ドクターシーラボは、スキンケア市場の中で「ドクターズコスメ」という分野を切り拓いてきたブランドです。ドクターシーラボは、経営トップが皮膚科の医師であることを強みに「皮膚科学の専門家」という認識を形創ることで、スキンケア業界の後発企業であるにもかかわらず、高い知覚品質の獲得に成功しました。

⑳ 共同開発先のブランド

共同開発先の名前を利用して知覚品質を向上させた代表例がユニクロです。ユニクロは一時期「安かろう、悪かろう」の印象が染みつき、業績が低迷していた時期があります。この「安かろう、悪かろう」のイメージを打破したきっかけがヒートテックの投入だったのです。ヒートテックは、ご存じの通り日本を代表する素材メーカーである東レとの共同開発商品です。販売の際には「安かろう、悪かろう」のイメージが根強いユニクロに対して、共同開発先である東レのブランドで補完することでヒートテックの知覚品質向上を狙いました。そしてその後ヒートテックは大ヒットし、現在ではユニクロの看板商品になっていることは、皆さんもご存じの通りです。

㉑ 広告のクオリティ

あなたは「ハロー効果」という心理学用語をご存じでしょうか?ハロー効果とは、ある対象を評価するときに、目立ちやすい特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のことを言います。詳しくはスズキモダンホームページのコラムにあります「マーケティングと行動心理学 その6 ―ハロー効果―」を御覧ください。御社のブランドの品質がどれだけ高かったとしても、そのブランドの広告やコミュニケーションのクオリティが低ければハロー効果が働き、あなたのブランドの知覚品質は下がることになる。逆を言えば、あなたのブランドの広告やコミュニケーションのクオリティが高ければ、やはりハロー効果が働いて、あなたのブランドの知覚品質は向上します。

今回のまとめ

今回は、生活者にブランドの魅力や特徴をもっとわかりやすく理解してもらうための手法である「知覚品質」についてお話しました。そもそも生活者が勝手に認識している品質を決めていく作業ですから、どんな方でも理解しやすく、想像しやすい言葉を使うべきです。業種や業態によってはすべての手法を使いこなすことができないケースもあります。また、わかりやすい何個かに絞って重点的にこれらの手法を使ってみるのも効果的です。こういった自社の利点や強み・魅力の棚卸しを実施し、わかりやすく整理することで、ターゲットである生活者だけではなく、社員の皆さんの理解も深まります。「腹落ち」「共通認識」はこういったところでも大切です。さて次回は、ここまでのブランディングで作り上げてきたものを活用した、より実践的なマーケティング手法にクローズアップしてみたいと思います。

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