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今さら聞けない!ブランディング講座 その2―ブランド提供価値―

今回も引き続きブランディングについてお話します。先回もお話したとおりブランディングとは非常に抽象的な概念なので、解釈の余地が大きく、様々な見解があるものです。読んだ本、ネットの情報、セミナーの見解などなど、様々なシーンで語られることが、それぞれに違う。学者ではない私たちがビジネスで使う概念という意味で、せめてプロジェクトのメンバーにだけは腹落ちしやすい言葉で共通認識を持たなければならいとお話しました。そこでブランドの定義を生活者から見た独自の役割を築き、感情移入が伴ったモノやサービスのこと。そして、ブランディングとは、できるだけ多くの人に、できるだけ際立った独自性と感情移入を促していく取り組み。と定義しました。詳しくは先回のコラム「今さら聞けない!ブランディング講座 その1―ブランディングって結局何ですか?―」をごらんください。今回はブランドが生活者にする約束そのものであるブランド提供価値についてお話します。

1. ブランド提供価値とは?
2. 誰に?を決めるブランドターゲット
3. 何を?を決める2つの価値と事実
4. 統一した印象、それがブランドパーソナリティ
5. ブランドエッセンスは約束そのもの
6. 今回のまとめ

ブランド提供価値とは?

ブランディングについて、もっとも大切なことは生活者の感情移入を作ることと繰り返し言ってきましたが、生活者の立場に立てば、そもそもブランドに対して何の連想も働かなければブランドに感情移入しようがありません。よって、まずつくるべきは「ブランドの連想」です。さらにブランドから得られる連想には、生活者にとっての「価値(=喜び)」が伴っている必要があります。なぜなら生活者はブランドに価値を感じて初めて、そのブランドを「欲しい」と思えるからです。これを、ブランドの世界では「ブランドの提供価値」と呼びます。目的は、生活者の期待とブランドによる価値提供の構造を戦略的に設計することです。簡単な手順はブランドが「誰に」「何を」約束するかを決めることです。そこでポイントは、ブランド提供価値はブランドを支える全社員が腹落ちできるものであることが重要であるということです。一部のメンバーだけで規定したものや、業者に一方的に規定されたものを後から全社員に伝達したとしても、「本当にそうなのか?」「他に何かないのか?」と疑問を持ったままでは、なかなか社員にとって「自分ごと化」しづらくなってしまいます。弊社では、社内のキーパーソンへのインタビューに加え、可能であれば全社員を対象にしたワークショップなどを実施することにより、社内全体を巻き込みながらブランド提供価値を一緒に規定することが多いです。ワークショップ内でも少数意見を切り捨てるのではなく、合意に何が引っかかっているかを徹底的に話し合う「合意形成型」で進めることで、ブランド提供価値が机上の空論に陥らず、全社員の「心の拠り所」として定着させることができるのです。

誰に?を決めるブランドターゲット

ブランドターゲットとはマーケティングターゲット(ペルソナ含む)とは違い、それらのユーザーが憧れを抱く存在でなければなりません。わかりやすくスターバックスの例でお話するとマーケティングターゲットはいつも来ているお客さん。子供からお年寄りまで幅広いです。しかしブランドターゲットは一人です。スターバックスのブランドターゲットは「都会的で上質な生活空間を求める人」と規定されています。もっとわかりやすく言うならば「ハリウッド映画でよくあるスタバを片手に仕事の電話をしながら忙しそうにタクシーに乗り込むビジネスパーソン。」といったイメージです。全てのお客さんがそんなビジネスパーソンになりたいと憧れてスターバックスへ来るわけではないですが、少なからず美味しいという価値以外のそういったイメージ的な理由があるのではないでしょうか?そういう価値観が分かる人に来てほしい。とスターバックス側が願っているとも言いかえられます。そんなことから、この人物の背景となる価値観を抽出することが重要となります。好きな音楽や映画のジャンルや休日の過ごし方や暮らしにおけるモットーなど、価値観を形成できるような言葉を紡ぐ必要があります。出てきた内容を元に似たワードなどをまとめつつ人間像を作っていくわけですが、より具体的にメンバーの皆さんに腹落ちさせるために、「例えるならこんな人」という像を芸能人やスポーツ選手、しっくり来る人が見当たらないなら、ドラマの役どころでも、マンガのキャラクターでもなんでも結構です。しっくりくる像が描けたなら、これも皆さんで共有するとより深いイメージが定着します。

何を?を決める2つの価値と事実

生活者がそのブランドの商品やサービスを購入・利用することによって得られる価値は大きく分けて2種類あります。
1つ目は、商品・サービスが提供する物理・機能面の効用を意味する機能的価値。例えば車であれば「燃費のよさ」、家電であれば「壊れにくさ」、スーパーであれば「品揃えの良さ」など、目に見えて証明できる価値を指します。先ほどのスターバックスの例であれば、機能的価値は「自分自身にとっての『美味しいコーヒー』。」と規定されています。甘味・苦味などのコーヒーの味は一定の客観性を持って証明できるますが、「自分自身にとって」という言葉の中に、美味しさは一人一人感じ方が異なるというブランドの思想が含まれており、その思想はスターバックスの「自分だけのコーヒーをカスタマイズできる」という機能的価値として具現化され、競争優位につながっています。
2つ目は、商品・サービスが提供する感覚・気分的な効用を意味する情緒的価値。スターバックスのコーヒーを購入する理由は、コーヒーの美味しさだけではありません。スターバックスが提供する「快適でくつろげる」空間というのもまた顧客が繰り返し足を運ぶ大きな要因となっています。同じく、車を購入する理由は機能性だけではなく、その車を運転している時に感じる高揚感も重要な要素です。化粧品もまた、気分を高めてくれる小さな紙袋や美しいパッケージ、店舗で購入する際の特別なサービスが価値の一部となっています。情緒価値は目に見えず指標しづらいですが、機能的価値と同等か、もしくはそれ以上にブランドに対する愛着に大きく影響していると言えます。
そしてこの2種類の価値を支えているものが、商品・サービスが持つ具体的な事実・特徴です。規定される提供価値はすべて何らかの事実・特徴に裏付けられている必要があります。つまり、2つの価値を生活者に感じさせるために、具体的に何をやっている(取り入れている)かという事実を示す必要があるということです。ちなみにここで規定する事実・特徴は、競合には真似できないブランド独自の強みであること、機能的価値・情緒的価値の実現に直結するものであることが望ましいです。

統一した印象、それがブランドパーソナリティ

ブランドパーソナリティとは、ブランドが醸し出す雰囲気や世界観のことで、「このブランドは〇〇な雰囲気だよね」といったフレーズで表現されます。もっとわかりやすく言うと「印象」です。生活者がそのブランドの商品やサービスにふれるタイミングはとてもたくさんあります。例えばコーポレートサイトやCM、チラシやDM、イベントや商談に対応したスタッフなどなど。生活者とのあらゆる接点で常に同じ「印象」を与えなければならない。そのためにこのブランドのことをどう思ってほしいか?という内容を言語化する時間です。そのブランドの広告を見た時の印象と、実際に店舗に足を運んだ際に受ける印象はやはり同じものでなければなりません。一貫したブランド・パーソナリティは、生活者の潜在意識の中にそのブランドらしさを印象付ける上で大きな役割を果たし、同時に弊社のような様々なツールを制作する業者にとっても、常にクオリティをジャッジされる拠り所となるのです。

ブランドエッセンスは約束そのもの

そして最後に規定するのが、ブランドエッセンス。これまで挙げてきた各提供価値要素の全てを凝縮した、いわばブランドの約束そのものを一言で表現したものです。ちなみにスターバックスは「Third Place = 第三の場所」という優れたエッセンスを規定しています。家庭と職場につぐ「第三の場所」という新しい居場所の提供という当時としては全く新しい提供価値であったことがスターバックスの成功要因につながっていると言われています。ココで決めた言葉は今後のブランディングを進めていくための憲法であり、常にそのルールに沿っているか否かをはかる、拠り所になる存在です。

他有名企業のエッセンス例

VOLVO(ボルボ) / Safe(安全)
Lamborghini(ランボルギーニ) / Exotic(異国情緒)
Disney(ディズニー) / Magical(魔法)

あなたのブランドは生活者にどんなエッセンスを約束しますか?

今回のまとめ

今回はブランディングにおいて骨組みとも言える「ブランドの提供価値」についてお話しました。ここで規定した内容は今後のブランディングに大きな影響を与えるとても大切なものです。先程お伝えしたとおり、なるべく多くの社員の方々を巻き込んで、全社員に腹落ちする内容を規定することをおすすめします。次回は、生活者によりブランドの魅力や特徴をわかりやすく理解してもらうための手法である「知覚品質」についてお話します。

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