投稿日:|更新日:

今さら聞けない!ブランディング講座 その1 ブランディングとは?

今や様々なビジネスシーンにおいて当たり前のように使われる「ブランディング」という言葉。皆さんは正しく説明できますか?本を読んで勉強した。ネット検索で調べた。セミナーを受けた。などなど、様々な方法でブランディングを学ぶことが出来ますが、正直なところ言っていることがバラバラで混乱してしまいませんか?それもそのはず「ブランディング」というものは、とても抽象的な概念なので、解釈の余地が大きく、様々な見解があります。よってまずはこの「ブランディング」って何?という疑問に対してプロジェクトにおける共通認識を持つことから始めなければなりません。

1. ブランドが歩んだ歴史
2. ブランドの定義
3. ブランディングの定義
4. ブランディングのメリット
5. 変わりゆくブランディングの形
6. 今回のまとめ

ブランドが歩んだ歴史

ブランディングを語る前にまずは「ブランド」とは何かをお話します。教科書的な話をすると、ブランドの起源は北欧の古い言語であるノルド語の「brandr(ブランドル)」に由来しているそうです。意味は「飼っている家畜に目印として焼印をつけること」だったそうです。今風にいうと商標ですよね。はるか昔はこれをブランドと言っていたそうです。そして時が流れて、アメリカマーケティング協会によって定義されたのが「個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合他社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの。」と言われます。はっきり言って何のことだかよくわかりませんね。この文章はアメリカマーケティング協会の公式定義ですから、誤解のない文章で作られなければならなく、ある程度こういった難しい文章になることは理解できますが、これこそが直感的にわかりにくいものにしてしまっている元凶だと思います。これが教科書的ブランド定義の最大の弱点だと考えています。我々は学者じゃありませんからもっとわかりやすく定義してもらわないと迷います。また、文中に「差別化」「名称」「シンボル」「デザイン」などの言葉が出てくることから、結局ロゴやパッケージデザインの事?と手法論におちいってしまいがちになるのです。日本でもブランディングがブームになったころ、この定義がベースになっていたので、ロゴを作っておしまいといった間違ったブランディングが蔓延しました

ブランドの定義

ここで「ブランドとは何か?」をシンプルに理解してもらうために、ひとつのモノを「製品」「商品」「ブランド」にわけて説明しようと思います。
まずは「製品」。製品とは工場の倉庫にある出荷待ちの状態のものを指します。製品開発者が長年かけて開発し、工場担当者が丹精込めて生産する。物流担当者が倉庫棚に整理し、出荷待ちの状態。しかしここでは生活者の関与は一切なく、企業主体で事が進められます。」
次に「商品」です。商品とはお店の棚に並んだ販売待ちのものを指します。商品開発担当者が「どう売るか?」を考え、ロゴ・パッケージ・価格を設定し、知恵を絞ります。そしてその努力が実れば小売店の棚に並ぶことになります。しかし商品棚には様々な競合商品がひしめき合っています。たまたま偶然その棚を通りがかった生活者が、たまたま偶然あなたの商品を目にし、更にたまたま偶然その時のニーズにマッチすれば、買い物かごに放り込む。「商品」は、数々の偶然をくぐり抜けた上での「偶然買い」にたよらざるを得ない状況。結果「偶然買い」を増やすために、販促担当者が「どう売るか?」を考え、値引きしたりノベルティをつけたり懸賞キャンペーンを展開するなどを考える。やはり「製品」と同じで売り手側主導でことが進められます。
では「ブランド」とは何か?ブランドとは、生活者一人一人の心の中にあります
ブランドとは、「生活者から見た独自の役割を築き、感情移入が伴ったモノやサービスのこと」という定義です。今までで私が一番腹に落ちた言葉です。独自の役割というのはモノやサービスの特徴に由来するところが大きいですから開発段階で精査するべきですが、大事なのは後半。生活者の感情移入を伴っているということです。だから生活者一人一人の心の中にあると言ったわけです。逆に言えば、どんなモノやサービスでも感情移入が伴った瞬間、その人にとってのそれは「ブランド」に変わるのです。

ブランディングの定義

ブランドの定義を「独自の役割を持ち感情移入が伴ったモノやサービス」と言いました。ではブランディングとは何か?それは、「できるだけ多くの人に、できるだけ際立った、独自性と感情移入を促していく取り組み」のことを言います。そしてその成果は偶然買い頼みを越えた「指名買い」によるロングセラーブランドになっていくことです。これがブランディングの定義です。
鋭い方は先述の製品、商品、ブランドの話からピンときた方がいるかも知れませんが、焼印で目印を作ったからといって、生活者が感情移入し継続的に指名買いしてくれるわけありません。これは先述の「製品」の話です。アメリカマーケティング協会の定義は「商品」の話です。「差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン」などの話も、結局それを実現したからと言って「強いブランド」が築けるとは限らない。この2つに共通する問題点は、どちらもブランドを企業側の目線でしか語っていないということ。企業都合、モノ起点、どう売るか?という発想に陥っては生活者の感情移入は引き出せない。ブランドとは生活者の心の中にある。製品・商品とブランドが大きく違うのは、いつだって生活者の目線で考えているということです。「どう売ろう?」「どう他社より優位に立とう」と1日中熟考しているマーケティング担当者の想いとは裏腹に、生活者はそのブランドについて1日1分も考えません。興味がないのです。なぜなら生活者の興味は「今より理想的なライフスタイルを実現すること」であり、ブランドは、生活者にとって、それらを実現するための「名脇役の一つ」でしかないから。生活者はそれぞれ多様なライフスタイルや価値観を持っています。その背景を深く理解しなければ生活者からの感情移入を勝ち取ることは出来ない。つまりブランディングが失敗してしまうということなのです。

ブランディングのメリット

しかしリスクも多いですがブランディングはメリットもたくさんあります。ブランディングに成功すると10個のメリットがあると言われています。

① 知名度が向上することで販売が拡大する。
② 値段が高くても売れる価格プレミアムが働く。
③ 愛着感情が強くなればリピート率が向上する。
④ 他の分野に展開できれば新たな市場の開拓につながる。
⑤ 他企業からのコラボなどアライアンス機会が拡大する。
⑥ 販売量が増えれば仕入れコストの削減につながる。
⑦ 指名買いが増えれば広告宣伝コストの削減につながる。
⑧ 知名度の向上は人材採用においても効果を発揮する。
⑨ 社員の働く誇りが向上する。
⑩ 資金提供しやすいと認知されれば資金調達コストが削減できる。

変わりゆくブランディングの形

しかしやっかいなことに、生活者の関心は自分だけじゃない時代に。リーマンショックを機に持続可能性を無視した市場競争や株価至上主義の限界が明らかになり、行き過ぎた自由主義の弊害を認識し市場が万能でないと理解したことから「経済的利得」より「社会的幸福」を重視する考えが浸透してきており、「営利企業は悪」といった極端な風潮が広がり利益一辺倒なブランドは徹底的に叩かれ、窮地に追い込まれる時代です。また、SDGsやCSV経営といった社会をよりよく変えるという考え方が浸透しつつある昨今、顧客志向マーケティングよりさらに踏み込んだ社会との共創によるブランディングが求められています。つまり生活者の関心事は「そのブランドは、自分や社会をどうより良く変えてくれるんだろう?」にシフトしていることを考慮しなければなりません。さらにクチコミがもう無視できないコンテンツに変わっています。良くも悪くも情報や知識は瞬時にSNSなどでシェアされ、ブランド側が情報をコントロール出来ない時代です。口コミが重要なブランド接点となっている現在は、心理的共感や共鳴によって生活者を味方につけることも重要になります。ブランディング新時代はもうとっくに始まっているのです。

今回のまとめ

曖昧で解釈の多いブランディング。上手に付き合うコツは、まず一緒に進める仲間と同じ概念を共有すること。そして常に生活者の目線で考えることが肝要です。難しくともメリットのたくさんあるブランディングですから、しっかりと時間と費用をかけて取り組むことをお勧めします。必要以上に急いでしまったり、変に費用をケチっては、中途半端なブランディングになりかねません。ただでさえ解釈の幅が広い難しい題材なだけに、成果が出ないどころか商機を失うことになってしまいかねませんのでご注意ください。次回は、ブランドが生活者にする約束をまとめた「ブランド提供価値」についてお話します。

>関連ページ
NEXT
「今さら聞けない!ブランディング講座 その2―ブランド提供価値―」