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コクヨデザインアワードから学ぶプロダクトデザインの変遷

コクヨデザインアワードは、主催:コクヨ株式会社、後援:デザイン誌『AXIS』による、2002年にスタートした学生から社会人まで自由に参加できるコンペティションです。毎年テーマが発表され、テーマに合わせた『働く、学ぶ、暮らすシーンで用いる文具・家具・道具全般』をデザインする。審査基準としては、社会の課題に対する解決の提案が含まれること。人を前向きにする要素が含まれていること。アイデアのユニークさ。プロダクトデザインの実現性。商品化の可能性。が重要となります。ちなみにヨコク賞という学生の応募者を対象として、将来の活躍への期待を込めて選定する賞があり、提出されたプレゼンテーションシートから、「ワクワクする未来を予感させる」提案として優れたものが最大20点選定されます。今回はコクヨデザインアワードという先進的なコンペを見ながら、プロダクトデザインの移り変わりについてお話したいと思います。

 

目次
1.『モノ』から『コト』へ変わり始めた初期
2.『可能性を表現すること』を求められる中期から現在
3.今回のまとめ

 

1.『モノ』から『コト』へ変わり始めた初期

このコンペが始まった時、まだ私はプロダクトデザインを学ぶ学生で先生からコクヨデザインアワードの話を聞いても、課題に追われてエントリーすらせず、そんな時間はないとくすぶっていました。そして2002年の受賞者が発表され、その中の「カド消しゴム(消しゴム)」を見た時に衝撃が走りました。しかも受賞者は私とさほど変わらない年齢という事実。正直嫉妬を超えて絶望に近い感情だったのを覚えています。その後「カドケシ」と名前を変えて商品化され、最終的にはMoMA(ニューヨーク近代美術館)のパーマネントコレクションにも収蔵されています。カドケシがこのコンペを有名にしたと言っても過言ではありません。アワード初期のテーマを見ても、身近で現実的なテーマです。受賞作品も機能面や形状などに特化した作品が多く、まだ技術や企業色が強い気がします。

2002年周辺は、何度目かのデザインブームで佐藤可士和さん、深澤直人さん、吉岡徳仁さん等のデザインした携帯電話などが発売され、その他のデザイナーも多くメディアに出ていたり、デザインを題材にした番組も数本ありました。テレビで話している有名デザイナーは、自分がデザインした内容よりも商品背景を多く語り、そのデザインがどのように社会に溶け込むかを熱心に説明していました。技術、企業色の強いプロダクトデザインから変化し始め、プロダクトデザインに対する考えも『モノ』から『コト』のデザインへ変わり始めた時期だと思います。

一体『コト』のデザインとは何か?『モノ』は商品単体を意味し、『コト』はモノも含めた周辺のデザインで、商品を買う心理、使う環境も考慮しているかなど、目に見えないところまでデザインしていることが『コト』のデザインです。私も学生ながら、背景やテーマ性などを課題発表の場で先生に突っ込まれて、自分のデザインしたい意思だけでは成り立たないことを思い知らされました。

 

2.『可能性を表現すること』を求められる中期から現在

中期から現在のアワードのテーマを見ていくと、人だけではなく世の中とのつながりだったり『コト』の範囲が更に広がり、今すぐというよりも少し先を向いているテーマが多くなっています。

今回のKOKUYO DESIGN AWARD 2023を見てみると、テーマは『embrace(抱擁する、抱き締める、包含する、受け入れる)』サブコピーが『別々だから、共鳴できる。真逆だから、近づける。カオスだから、美しくなる。でこぼこだから、一つになれる。離れるから、拡張する。ぶつかるから、新しくなる。ばらばらな人々を、暮らしを、時代を、地球を、embraceするデザインってなんだろう。違いは始まり、違いは進歩、違いは未来?』でした。

壮大なテーマで抽象的ではありますが、主催者側が求めているのは、情報過多になりがちな現代において、すぐ解決することを必要とせず、少しずつゆっくりなペースで世の中を変えていけたらと考え、作品を通じて『可能性を表現すること』を求めているのではないでしょうか?

とは言っても、ここから具体的な『モノ』へ落とし込むのが難しいことだと思います。今回のアワードに限らず、プロダクトデザインの難しいところは人が使う以上は、使えなければ必要とされないということ。厳しいですが概念がどれだけ優れていても商品にならないのです。これもクラフトやアートと線引される理由です。私の周りのプロダクトデザイナーは、その狭間で今でも葛藤しています。

 

3.今回のまとめ

コクヨデザインアワードを通じで、生み出していく側(メーカー)の思いや、応募者に対する期待などを読み取ることができました。日々新商品が発売されては消えていく中で、必要とされる商品として生き残るにはどんな商品でも『モノ』だけの価値でなく『可能性』を感じる商品でなければならない、そんな気がします。今回スズキモダンでもチームを組みKOKUYO DESIGN AWARD 2023にエントリーしました。プロダクトデザイナーでない私たちがどれだけできるかは未知数ですが、右往左往し納得のいく作品ができたと思います。1次審査の結果は11月下旬予定なので楽しみです。