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マーケティングと行動心理学 その19―バーナム効果―

突然ですが、あなたは今、性格分析テストを受けたとします。いくつかの設問の結果、次のような診断結果を受け取りました。

・普段は社交的だが、一人の時間も大切だと思っている。
・まだ活かしきれていない才能を持っている。
・物事を現実的に捉える一方、ロマンチックな一面もある。
・自分が下した判断や行動が正しかった、真剣に悩むことが有る。
・他人に認められたいと思いながら、自分を責める傾向がある。

この結果を見てどう思いましたか?それなりにあなたの性格を言い当てていませんか?
実はこのテストには、誰にでも当てはまる曖昧な内容なのに、自分に当てはまっているように見せかける「バーナム効果」という心理効果が利用されています。今回はセールスや広告など、様々なビジネスシーンでも活躍するこの心理効果をご紹介したいと思います。

1.  バーナム効果とは?
2.  ビジネスシーンでの活用事例
3.  上手に扱う4つのコツ
4.  今回のまとめ

バーナム効果とは?

バーナム効果とは、誰にでも当てはまるような曖昧な記述や発言を見たり聞いたりした際に「自分のことを言い当てている」と思わせてしまう心理、あるいはその現象を言います。先程あげた例のような性格診断テストや占い、血液型診断などに利用されていることが多い心理効果です。19世紀のアメリカで観客の心理を巧みに操ってサーカスを成功させたP・T・バーナム氏の残した「誰にでも当てはまる要点というものがある」という言葉に由来しているそうです。バーナム効果の例をあげると「あなたは今、何か悩みを抱えていますね?」と言われたとします。人は、「腰が痛い」といったものから「職場の人間関係に悩んでいる」といったものまで、大なり小なり何かしらの悩みを抱えている生き物です。そう考えると「悩みがあるか?」と聞かれれば誰もがYESと答えてしまいます。しかしこれはテクニックに過ぎません。この効果の優れた点は、こういったテクニックを使って「当たっている」と思った人は、ついつい自分から自身の悩みや性格などについて詳しく話してしまいます。また「この人は私のことを理解してくれている」と認識し、心的距離を縮めたりする効果も期待できます。なぜこういった現象が起こるのか?それは「確証バイアス」という効果が関係しています。バイアスとは日本語で「偏り(かたより)」と言われており、確証バイアスとは、自分にとって都合の良い情報だけを無意識にキャッチし、都合の悪い情報を無意識に無視してしまったりする傾向のことです。わかりやすい例として血液型診断があります。A型の特徴は?と聞くとだいたい「まじめで几帳面」といった特徴をあげるかたが多いと思います。もうこの時点で偏った考えになっています。そのため、A型の方がミスなくきれいにまとめた書類やレポートを上司が見た時、「やっぱり〇〇さんはA型だから几帳面だな」と思ってしまいます。しかしこの方のデスクに物や書類が溢れかえって雑然としていても、上司は無意識にその点が見えなくなってしまう。つまり「几帳面な〇〇さん」という事実にとって不都合な情報は、見落とされがちになる。これが確証バイアスです。バーナム効果は、この確証バイアスが引き起こされることで、相手を信用しやすくなってしまう効果です。

ビジネスシーンでの活用事例

バーナム効果をビジネスに活用するためには、誰にでも当てはまることを理由にして、自社の商品やサービスの利用に結びつけると効果的です。特に効果を発揮するの以下の2つと言われています。

セールストーク

バーナム効果はセールストークでその効果を発揮します。多くのクライアントが関心をいだいているであろうことや、担当者の悩みや心配事を解決できる手段として利用します。相手の関心事をよく理解し提案できれば、相手の納得感が増し、購入に至る可能性が高まります。例えばパスワード管理ソフトの営業をするなら、「様々なログインパスワードの管理って、面倒だと思ったことはありませんか?」と聞きます。仕事をしていれば大量のIDとパスワードを管理しなければなりませんが、パスワードを使いまわしたり、いつでも見られるところに書いたりするとセキュリティが心配。これはPCを使った業務をする多くのビジネスパーソンが感じることです。相手が「それは自分のことだ」と感じてくれればこちらのものです。そこから商品の説明をすれば、ただ「商品について説明させてください。」と始めるよりも格段に聞いてもらいやすくなります。

広告

様々な広告のキャッチコピーなどにも、このバーナム効果は活躍します。セールストークと基本的には同じで、誰にでも当てはまりやすい悩みをメインのキャッチコピーに採用します。例えばダイエットサプリメントのキャッチコピーを例に上げると、

「痩せたい!でも食べたい!ガマンしないダイエットはコレ!」
あなたは痩せたいと強く願っています。しかし一方で無理な食事制限は体に悪いということをあなたはよく知っています。でもその悩み、解決できるとしたら?

ここまで読めば恐らく「痩せたい」と思っている殆どの方が共感するのではないでしょうか?もちろん売り文句だけで内容が伴わないようでは論外ですが、自社の商品により興味を示してもらいやすくなる効果が見込めます。

上手に扱う4つのコツ

特定の相手にのみ伝える。

バーナム効果は誰にでも当てはまることを伝えるのですが、相手に「それって誰にでも当てはまるよね?」と気づかれてしまっては効果を発揮できません。そのために、特定の相手に絞って伝えることが重要です。例えば占いなどで名前や生年月日や血液型など、様々なパーソナルな情報を聞かれることがあると思います。これは「自分だけに当てはまっている」と思わせるために聞き出しているという側面があるそうです。冒頭の性格分析テストなどでも同様で、受けたことが有る方はも多いと思いますが、設問が多ければ多いほど、本人は大変な思いをしますが、皆に当てはまることではなく、より自分の性格に即した内容になっているだろうと錯覚するのです。

ポジティブな内容を多くする。

人は自分にとって都合の良い情報は信用しやすかったり、記憶に残りやすかったりしますが、都合の悪いことは無意識に無視してしまったりします。先述の「確証バイアス」と同様です。マイナス要素は少なくし、ポジティブな内容を多くすることをおすすめします。

情報発信者の信頼度を高める。

誰にでも当てはまる内容を、うまく個人に向けた情報と思わせられても、それを発信している人のことが信用できなければ効果が半減します。逆によく当たると話題の人気占い師や、有名企業の社長、web業界ならフォロワーが10,000人以上いる方だったり、チャンネル登録者が10万人以上いたりといった情報が信頼を高め、より強力にバーナム効果が発揮されます。

言葉選びを慎重に行う。

使う言葉を、より多くの方に当てはまるように選ぶということです。例えば、「あなたは悩みがあります」と伝えるとします。先述の例ですが、これでも多くの方に当てはまると説明しましたが、まれに悩みのない方もいるかも知れません。そこで「あなたは自身でも気付いていない小さな悩みがあるかもしれません」と言うと、相手の解釈の幅を広げるので、「ひょっとしたらあの事かもしれない」と悩みを探してもらえるのです。

今回のまとめ

今回は、バーナム効果の注意点や活用事例について紹介しました。こういったテクニックをうまく活用できるとより有利に商談を進められるようになります。しかしどんな心理テクニックにも共通して言えますが乱用してはいけません。使い方を間違えると相手が騙されたと感じてしまい、商談が打ち切られてしまうこともあります。こういった事態を防ぐために、きちんと効果の仕組みを理解し、使用頻度は最低限に抑えることをおすすめします。

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