ファンを育てるマーケティング「ファンベース」とは?
よく「先の見えない時代」と言われますが、これから先、日本は超高齢化社会や、人口急減などさまざまな不安を抱えています。人口が減るということはつまり物理的に市場が少なくなっていくということです。そんな中で企業が生き残っていく、また成長し続けるにはどうすれば良いか、今回は「ファンベース」という考え方についてお話したいと思います。
1. ファンベースとは?
2. ファンベースが必要な3つの理由
3. ファンベースの2つのポイント
4. まとめ
1.ファンベースとは?
「ファンベース」とは、簡単にいうと「自社を好きでいてくれる“ファン”をベースに考え、大切にすることで、中長期的に売上や価値を上げていく」という考え方のことです。よくある「ファンマーケティング」や「ファンビジネス」とは違い、ファンを無理に増やしたり囲い込むのではなく、ファンに寄り添い、誠実に向き合うことでファンと共に成長していく経営姿勢のことをいいます。
そもそもファンとは誰か?
「ファン」とは、自社のサービスやブランドが大切にしている価値を支持してくれる人のことです。よく勘違いされるのですが、「たくさん買ってくれる人がファン」ではありません。そこまで好きでなくてもいつも「何となく買っている物」はありませんか?そういう物は他にもっと低価格な物や機能的な物が出ればそちらを買うようになりますよね。例えば、野球の球団のファンで考えてみてください。中日が巨人に負けたからといって、中日ファンは「あぁもう明日から巨人ファンになろう」とはならないですよね。勝ち負けでコロコロと推し球団を変える人はファンとは呼べません。本当のファンは、たとえチームが弱くなっても離れていきませんよね。そのチームや、企業の理念や想いを支持してくれる存在、それが“ファン”です。
2. ファンベースが必要な3つの理由
①売上の底上げができる
「売上を上げたい」そう思ったら「新規顧客を増やさないと」と考える人が多いのではないでしょうか?しかし、どの業種でも顧客全体の上位20%である「優良顧客」が売り上げの80%を占めているといいます。
売上の80%を支えてくれているファンにもっと喜んでもらい、さらに買ってもらえれば、売上の底上げができます。新たに顧客を増やすことではなく、もともと自社の商材に興味を示してくれるファンに焦点を当て、さらに売上を伸ばす。
それがファンベースの考え方の基本になります。
②3つの「超〇〇」で新規顧客獲得の難易度が高くなっている
どうして新規顧客を増やす策をとらないのかというと、増やさないのではなく、増やせないのです。近年、新規顧客の獲得の難易度が上がっていると言います。その理由は3つの「超〇〇」によって起きています。
1.「超高齢化」
冒頭でもお話ししましたが、日本は人口急減や、超高齢化で市場が減少しつつあります。物理的な市場の縮小に加え、高齢者の方には保守的な考え方の人が多く、新しいものにはなかなか興味を示さない傾向にあるのです。
2.「超成熟市場」
今の時代は「超成熟市場」といって、モノで溢れかえっており、またどの商品のクオリティも高い。スーパーでチョコレートをひとつ取っても、たくさんの種類の商品がありますよね。しかもどれもこれも美味しい。それが「超成熟市場」です。人は選択肢が多ければ多いほど買いづらくなります。行動心理学の世界では「ジャムの法則」と言ったりします。「超成熟市場」の現代は、物が売れづらい時代といわれます。
3.「超情報量社会」
現代人の1日の情報量は平安時代の人の一生分もあると言われるほど、昨今の世の中は情報で溢れています。そんな無数の情報の中でキャンペーンを打ったとしても、それは海に撒かれた砂の一粒のように、誰にも注目されることなく流れていくことがほとんどです。
そんな砂の一粒を捕まえてくれる人、それが“ファン”なのです。みなさんにも経験があるのではないでしょうか?自分の好きなアーティストなら、わざわざバンドのHPに行ってライブの情報を仕入れたり、SNSをフォローして投稿があった時に通知が来るように設定したり…このように、ファンは自ら情報を集めに来てくれるのです。
これらの理由から新規顧客獲得が難しい現代。こういう時代には、“ファン”がいるお店や企業が強いのです。
③口コミ力が高い
ファンベースの3つ目の強みは口コミ力の高さです。何事も“ファンからの言葉”は熱がこもっていますよね。自社からのPRよりもファンからのPRの方が影響力を持つことがあります。またとあるマーケティング・コンサルタント会社の調べで、「一番信頼できる情報源は?」という質問に対し、「家族や友人」と答えた人が一番多かったそうです。人は同じような属性の価値観を持つ人と繋がろうとする傾向があり、それを「ホモフュリー」と言います。人は似た価値観を持つ相手からは影響を受けやすいため、ファンからの口コミはかなり効果的であるといえます。
最近では、株式会社栗山米菓が「瀬戸しお」という揚げせんべいのプロモーションとして、X(旧Twitter)での消費者のポスト(口コミ)を交通広告のビジュアルとして利用し、話題となりました。
この広告では、Xで瀬戸しおにまつわるユニークなポストをしているユーザーに直接許諾をもらい、その生の声を広告に反映したとのことです。ファンの実際の口コミを活用することで、商品への親近感や信頼感がアップし、さらに新たなファンを生み出すプロモーションになっています。
引用:Adver Times |https://www.advertimes.com/20240904/article473051/2/
特設サイト:栗山米菓|https://befco.jp/setoshio_pr2024/
3. ファンベースの2つのポイント
良いところを伸ばす
「ファンベース」を考えていないと、新規顧客獲得のために商材やブランドの中身を変えてしまうことがあります。それをしてしまうと、せっかく自社を好きでいてくれたファンが離れてしまう、なんてことになりかねません。「今買ってくれていない人」に合わせるのではなく、「今好きでいてくれる人」が、好きなところはどこか?に注目することが大切です。「悪いところを直す」のではなく「良いところを伸ばす」ことで、ファンの心をがっちりと掴みましょう。
情緒価値で感情を刺激する
商材には機能価値と情緒価値があります。機能価値というのは、簡単に言うと製品やサービスの機能・性能に対する価値のこと。また情緒価値は、その製品やサービスから受ける印象に対する価値となります。 例えばドライヤーでいうと、マイナスイオンが出たり短時間で髪が乾く!というのが機能価値、デザインや本体の質感などが情緒価値にあたります。「ファンベース」においては後者の「情緒価値」を高めることが大切です。もちろん、機能価値も大事ではあります。しかし、機能価値というのは必ずマネされ、より高い機能の他社製品が出てきます。例えば先程のドライヤー。マイナスイオンの出るドライヤーはもう珍しくもないですよね。出始めの頃は大変な人気だったとしても、すぐに後発の商品に価格も機能も追い抜かれてしまうのです。それに対し「情緒価値」というのはコピーされづらく、顧客が“ファン化”するためにとても重要な価値です。みなさんにも「機能的にはこっちの方がいいんだけどデザインが好きだからいつもこのメーカーにしちゃうんだよね」みたいなことはありませんか?「情緒価値」の高いブランドや企業はファンがつきやすく、また価格競争に巻き込まれにくくなります。
4. まとめ
いかがでしたか?ファンを大切にする「ファンベース」の考え方は、古くからあるマーケティングの基本のようでいてまだまだ新しい、これからの時代にこそ必要な考え方です。先述のように、今後世の中はどんどん市場が縮小し、景気は厳しくなる一方だということがわかりました。それを聞くと「新規顧客を増やさなくては」「自社の欠点を改善しないと」など、ネガティブな方向に考えてしまいがちです。しかし、「ファンベース」の、あなたの会社の商品やブランドを好きになってくれた「ファンをより大切にする」という考え方は、とてもポジティブなマーケティング手法であり、“ファン”はもちろん、“あなた”も、“あなたの会社で働く社員”も、すべての人が幸せになれる方法なのではないでしょうか。
「ファンベース」について漫画でわかりやすく解説したおすすめの本をご紹介します。
ベストセラー『ファンベース』著者の佐藤尚之と、ネスレ日本でコーヒーのオフィス向け定期宅配サービス「ネスカフェ アンバサダー」を大成功に導いた津田匡保(ファンベースカンパニー代表)の共著によるビジネス書。 漫画と対談でファンベースの実践ポイントを解説しています。ファンベースを実践している10の企業の事例が対談形式で紹介されています。
ファンと共に歩んだ企業10の成功ストーリー ファンベースなひとたち(佐藤尚之 津田匡保 著)
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