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デザインで魅力を伝える|農業ブランディングとは

先日、10月13〜15日に幕張メッセで開催された、「農業week」に行ってきました。農業weekは日本最大の農業・畜産の総合展示会です。ここでは、最新のスマート農業機械や、農業・畜産資材、6次産業化製品など、農業に関する企業が一堂に集結し、最新の農業を知ることができます。とある農家さんとご縁があり、デザイン会社として何ができるだろうと考えましたが、「まずは今の農業事情を知るべきだ!」と思い、視察に行くことに。最新の農業機器や、ドローンの会社の出展も多く、各社工夫を凝らしたブースで、農業界は想像よりもずっと活気があることを肌で感じました。出展企業の中に、デザイン会社さんも数社あり、話を聞くと「農業ブランディング」を手掛けているのだとか。昨今、農協離れが進み、自分の作った作物を他と差別化するためにブランディングを行う農家さんが増えているそうです。今回は、そんな「農業ブランディング」についてお話したいと思います。

1. JA離れが進む農業界
2. 農業ブランディングとは
3. 農業ブランディングをするメリット
4. 農業ブランディングの5つのポイント
5. まとめ

1. JA離れが進む農業界

消費者の多くは、農作物を価格重視でより値段の安いものを求める傾向があります。そのため、農作物を低価格で販売する企業や農家が多く、低価格帯で勝負するとどうしても価格競争に巻き込まれてしまいます。低価格で利益を出すためには多くの農作物を生産・販売しなければならず、そのためには広大な土地や従業員が必要なため、小規模の農家では大規模農家の大量生産には太刀打ちできません。
日本の農協(JA)は、委託販売が基本であり、価格や売り先などは地域の単位農協(単協)に委託し、さらに単協は全国農業協同組合連合会(全農)に委託し、市場に出荷されます。各農家には地域ごとの平均売値をもとに手数料や流通コストを差し引いた金額が支払われるため、生産者の手取りは30〜40%ほどだといいます。このように、農協を経由した販売は流通コストが高く、生産者の手取りが低いことが農協離れが進む原因となっているのです。
しかし、農協を介さずに農作物を売ることは容易なことではありません。農協を介さないということは、自ら販路を築かなくてはなりません。つまり自分で育てた農作物を自力で売り込まなければならないということです。そのためには、他の農園で作られた作物との差別化、「ブランディング」が必要不可欠なのです。

 

2.農業ブランディングとは

農業におけるブランディングとは、農作物や農園を他と差別化し、ファンを作ること。数ある農作物の中から選んでもらい、買ってもらえるように「顔」をつけることをいいます。たとえばパッケージも何もないトマトを見て「何県の何という農家の誰が作ったトマト」なんて、トマト農家さんだってわかる人は少ないでしょう。スーパーに並んだトマトも、おそらくは複数の農家さんが作ったものですが、見ただけで違いは素人目にはわからないですよね。農作物はよほど特殊な品種でない限り、特徴がつけにくいのです。
そこで、農作物に「顔」をつけます。「顔」とは、ロゴマークだったり、特徴的なパッケージだったりとさまざまな方法がありますが、大事なのは「誰が作った、どういうものなのか」ということです。農業ブランディングにおいてはここがとても重要です。

農業ブランディング

農業ブランディング

 

3. 農業ブランディングをするメリット

農業ブランディングをするメリットは、自分の農作物の強みがわかり、売り込みがしやすくなることです。デザインの力で目に留まることもメリットではありますが、一番のメリットは自身の農産物のセールスポイントとなる部分を整理できる点だと考えます。以前のブランディングコラムでご紹介したように、ブランディングとは、「できるだけ多くの人に、できるだけ際立った、独自性と感情移入を促していく取り組み」のことです。これは農業ブランディングにおいても同じで、農作物にも「際立った独自性」を打ち出していくことが重要です。そしてその特徴に感情移入をした「ファン」が増えることで長期的な売上が見込め、ファンがつけば他の作物や、作物を使った加工品なども購入してもらえる可能性も高まります。また、ブランディングは「高齢化」「求人しても人が来ない」「後継者問題」といった、農業界の長年の課題である、「人材」の問題にも良い影響を与えているのだとか。後継者がいない農家さんが、高齢のため自分の代で廃農を考えていたところ、ブランディングによって就農したがっていた若者の目に留まり、後継者となったという話もあるのだといいます。

 

4. 農業ブランディングを成功させる5つのポイント

農業だけとは限りませんが、ブランディングを成功させるための5つのポイントを紹介します。

視覚的シンボルをつくる

視覚的シンボルとは、VI(ビジュアルアイデンティティ)といわれる、いわゆるロゴマークのことです。これはその農園の「顔」となります。時間をかけて、丁寧につくりましょう。

 

一言で言える自分の強みを言葉にする

自分の農作物が他とは違う!というところや、こんなポリシーがある!ということを言語化しましょう。これがブランドの合言葉となり、これは一度決めたら変えられないものです。時間をかけてしっくりくる言葉をつくりましょう。

 

一度決めたことはブレない

たとえば、自分の農園の強みを「有機肥料しか使わない」と決めたとしましょう。それを一度「強み」と決めたらどんなに軌道に乗って生産性を上げたりコストを下げたくなっても変えてはいけません。「強み」がブレると、ブランドの根幹が崩れることになりかねません。

 

統一感と一貫性

統一感と一貫性を持たせることはブランディングにおいてとても重要です。さまざまな作物を栽培する農家であれば、そのすべてにその農家のものであるという「顔」が必要です。

 

常に発信する、し続ける

多くの人の目に留まるためには、多くの人に発信をしていかなければなりません。SNSを活用したり、話題性のあるお店に売り込んだりといった活動は常に行いましょう。どこで誰の目に留まるかわかりません。なかなか話題にならずとも、諦めずに発信し続けることが大切です。

 

5.  まとめ

みなさんは、農業に対して、どんなイメージを持っていますか?「後継者不足」「若手不足」「肉体労働」「高齢化」「人がいないから衰退していくのでは」私も、そんなイメージを持っていました。ですが農業は決して衰退産業ではありません。日本の人口は減少していますが、世界の人口は激増していて、日本の農林水産物・食品の輸出額は増加傾向にあるといいます。近年の輸出目標額はなんと1兆円越えともいわれています。そのことからも、農業は衰退産業ではなくどんどん発展していける業界といえます。そんな農業を、私たちもデザインの力で活気づけていきたいと考えます。

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