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マーケティングと行動心理学 その10―ダブルバインド―

「あなたはパン派ですか?ごはん派ですか?」と尋ねられると、たとえあなたが麺派であったとしても「どちらかといえばごはん派かなぁ」と、どちらかを答えたりしませんか?どちらも好きでなかったのに、無意識にどちらかを選んでしまっている。これはダブルバインドという心理効果が働いているからです。このダブルバインドを正しく理解し応用することができればビジネスはもちろん、様々なシーンで会話を優位に進めることが出来る効果です。今回でこのマーケティングと行動心理学のコラムも10回目。節目にふさわしい、とっても強力な心理効果をご紹介いたします。

1. ダブルバインドとは?
2. 2種類のダブルバインド
3. ビジネスシーンでの活用法
4. 今回のまとめ

ダブルバインドとは?

ダブルバインドとは日本語で「二重拘束」という意味で、「2つの矛盾した命令を他人にすることで相手の精神にストレスがかかる状態」を指します。例えば親が遊んでいる子どもに対し、「ちゃんと勉強をしなさい!」と命令した後、「ちょっとこっちに来て夕食作りを手伝って」と依頼をしたとしましょう。すると、子どもは「勉強」と「お手伝い」の2つを同時にこなせず、どのように行動・選択をしたらいいのかわからなくなってしまいます。このような心理的拘束をダブルバインドと呼びます。この概念は、アメリカの精神科医であったグレゴリー・ベイトソンが1956年に提唱した「ダブルバインド理論」に由来しています。彼はこの理論で、ダブルバインドが繰り返されることで、精神分裂症の発症リスクが高まると唱えました。いわば人間の心を壊す危険性のあるコミュニケーションであると言えます。

2種類のダブルバインド

ダブルバインドは、日常でも度々起こりうるものです。例えば職場での上司への質問のシーンで、「わからないことがあれば何でも聞きなさい」「わからない場合はすぐに聞きなさい」など、普段から親切に接してくれる上司が、実際わからないことがあって、いざ質問をしてみると「少しは自分で考えろ」「何でもすぐに聞くな」などと、普段の言動とは矛盾した答えを返されることがあります。これは、質問をしていいかどうかがわからなく、メッセージの受け手が混乱してしまうダブルバインドの例です。仕事でミスをしたシーンなどでも、上司から指摘をされて、ただ話を聞く中で「何とか言いなさい」と言われることもあります。そこでミスの原因を説明しようとしたところ「言い訳をするな」と返されてしまうことも。これも、返答をしていいかどうかがわからなく、メッセージの受け手が混乱してしまうダブルバインドです。こういったどちらの選択肢を選んでもかならず不正解になってしまうという「否定的ダブルバインド」と言い、職場だけでなく家族や仲間にも意図せず起こってしまうことが多々あります。こういった矛盾したメッセージを受け取り続けた立場の弱い側は、混乱や緊張から自由な意思決定ができなくなってしまい、モチベーションの低下やひどければ精神に異常をきたすケースもあります。相手を思いやっているつもりが、知らず知らずに精神的に追い込んでいる場合があるので、あなたが上司の立場なら、自分はこうなっていないか注意しなければならないし、部下の立場なら、陥ってしまう前に、なぜこうなったかという仕組みを知っておく必要があります。
また一転して、どちらの選択肢を選んでも正解に導こうとする「肯定的ダブルバインド」というものも存在します。アメリカの催眠療法師のハミルトン・H・エリクソン氏がダブルバインドを睡眠治療に昇華させた手法で「エリクソニアン・ダブルバインド」とも言われています。例えば、言われたことに従いたくないという患者に対してエリクソン氏は「こちらへ来たくないのなら、その場所で立ったまま話を聞いても良いですし、座りたくなったら、こちらへきて座ってもかまいません。」といって催眠治療をはじめたそうです。患者は気付きませんが、立って聞くのか、座って聞くのかの議論のおかげで、どっちにしても治療をはじめる前提にすり替わっています。他にも、「気付いていますか?あなたには無限の可能性があることを。」と問います。YESならあなたは自分に無限の可能性があることを自覚できますし、NOなら無限の可能性があることを知らないだけということになります。つまりどちらの選択肢でも「自分には無限の可能性が有る」ということを自覚できるようになっている。このような質問を繰り返しエリクソン氏は治療を行っていたそうです。

ビジネスシーンでの活用法

エリクソニアン・ダブルバインドを応用することで、相手にNOを言わせない交渉を可能にさせます。例えば商品を提案するときに「こちらの商品はいかがですか?」と尋ねれば、お客様に「Yes・No」の選択をさせることになります。しかしダブルバインドを使って「Aの商品とBの商品では、どちらがお好みですか?」というメッセージにするだけで、購入を前提にした選択になるので、その時点で先程の「Yes・No」の選択肢を無意識に除外させることができます。ただし、注意点がひとつあります。ダブルバインドは、相手に「選ばされた」と思われてしまうと効果がなくなってしまいます。あくまで「自分で決めた」と思ってもらうことが大切です。よって、選択肢の内容は選択しやすいことが重要になります。突拍子もない内容では、前提ごと覆されてしまうこともあるので注意が必要です。

今回のまとめ

ダブルバインドとは2つ以上の矛盾するメッセージによる「板ばさみ」状態になることを言います。繰り返されると精神的に多大なストレスを受けます。ビジネスや日常などのさまざまな場面で起こりうることで、自分が知らずにかけてしまうことも、相手から受けることもあります。ダブルバインドに対する認識や理解を深め、不必要なストレスやトラブルから回避できるようにしましょう。また、うまく応用すればNoと言われない交渉を可能とする力も持っています。正しく理解し、ビジネスはもちろん様々なシーンでの優位な交渉にお役立てください。

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