広告・デザインにおける著作権|クリエイターが知っておくべき著作権法とは

いまや「全員がクリエイター」と呼ばれる時代で、デザインや芸術を専門に学んだ人でなくとも、誰でも創作ができ、著作権の権利意識が高まっています。そんな時代ですが、「著作権 ニュース」で検索をかけると著作権侵害の関連ニュースが数多くあり、著作権を正確に理解できていない企業・個人は少なくありません。
何かしらの創作物を制作するにあたって著作権を知らないことはリスクマネジメントの怠りであり、最悪の場合企業全体の信頼を失うことに繋がってしまうので、著作権については受注者側も発注者側も、創作に関わる人であれば、必ず把握しておきたい権利・制度です。
著作権とは何か
著作権とは、作品を作った人(著作者)が、その作品をどう使うかを決める権利です。
たとえば、誰かが小説や音楽、写真を作ったとき、その作品をコピーしたり、公開したり、売ったりする権利が著作者にあります。他の人が勝手にその作品を使うと、著作者の許可なしに行動したことになるので、それを守るためのルールが著作権法です。そのため、他人の作品を使いたい場合は、著作者から許可をもらう必要があります。
著作物とは何か
では、そもそも何が「著作物」にあたるのでしょうか。
著作権法で保護の対象となる著作物であるためには、以下の事項をすべて満たすものである必要があります。
(a)「思想又は感情」を表現したものであること
「東京タワーの高さ:333メートル」といった 単なるデータなど(人の思想や感情を伴わないもの)が除かれます。(b)「創作的」であること
他人の作品の「模倣品」など(創作が加わっていないもの)が著作物から除かれます。(c)「表現したもの」であること
「アイデア」など(表現されていないもの)が著作物から除かれます。(d)「文芸,学術,美術又は音楽の範囲」に属するものであること
「工業製品」などが著作物から除かれます。著作物について(文化庁のページより)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu.html
それでは、著作物の定義がわかったところで、具体的な著作物の例を見ていきましょう。
言語の著作権
講演、論文、レポート、作文、小説、脚本、詩歌、俳句など音楽の著作権
楽曲、楽曲を伴う歌詞など舞踏、無言劇の著作物
日本舞踊、バレエ、ダンス、舞踏、パントマイムの振り付け美術の著作物
絵画、版画、彫刻、マンガ、書、舞台装置、茶碗、壺、刀剣などの美術工芸品建築の著作物
芸術的な建築物地図、図形の著作物
地図、学術的な図面、図表、設計図、立体模型、地球儀など映画の著作物
劇場用映画、アニメ、ビデオ、ゲームソフトの映像部分などの「録画されている動く影像」写真の著作物
肖像写真、風景写真、記録写真などプログラムの著作物
コンピュータ・プログラム著作物について(文化庁のページより)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu.html
誰かが創造した独創的な作品はすべて「著作物」だと思っておいて良いでしょう。
著作物は、ただ存在するだけでなく、何かを表現している必要があります。ただのリストや事実の羅列は著作物とはみなされませんが、それを独自の方法で説明や解説を加えたものは著作物となり得ます。どういうことかというと、たとえば「歴史」の事実だけをただ記載したものは著作物ではありませんが、その歴史について、独自の視点や解釈、取材内容などを付け加えたものは著作物になるということです。「三国志」を題材にした漫画や映画などはそれに当たるので、著作物だといえます。
広告・デザイン制作における著作物について
例えば、制作会社へチラシ制作を依頼した場合、どのような著作物が発生するか考えてみましょう。チラシ1枚の中にも、「著作物」が複数存在する事があります。
・コピーライターが考えたキャッチコピー
・カメラマンが撮影した写真素材
・イラストレーターが描いたイラスト
…など。動画広告であれば、音楽素材なども著作物にあたります。
このような素材は、イラストであればそれを描いたイラストレーター、写真素材であれば撮影したカメラマンにそれぞれ著作権があります。
たとえば、チラシのためにイラストレーターに制作依頼したイラストを、無断で改変し他の広告で使用したりすると著作権の侵害となってしまいます。制作を依頼した側だからといって、素材をどこまでも自由に使用できるわけではないので注意が必要です。また、チラシ全体のデザインに関してはどうでしょうか。こちらも素材と同様、制作した側、つまり制作会社に著作権があります。
依頼主がチラシのデザインデータを流用するのも著作権侵害にあたる場合がありますので、無断ではなく制作会社に相談しておくのがベターです。
著作権法について
著作権法は、著作物の作者が自らの作品を保護し、作品をどう使うかを決めるルールを設けてくれるものです。著作権法で定める権利は多岐にわたり、これらの権利を通じて著作権者は自分の作品の使用を制限したり、許可することができます。その権利の例をご紹介します。
複製権
著作物をコピーする権利。公衆送信権(放送権を含む)
インターネットや放送を通じて著作物を公開する権利。上演権および演奏権
公の場で演劇や音楽を演じる権利。展示権:美術作品を公に展示する権利。頒布権
複製物を販売または貸出する権利。翻訳権および翻案権
著作物を他の言語に訳したり、別の形式にアレンジする権利。改変権
著作物を改変する権利。貸与権
図書館などで著作物を貸し出す権利。録音権
音楽や音声を録音する権利。録画権
映像作品を録画する権利。公表権
著作物を初めて公に発表する権利。口述権
著作者が自身の文学的な作品を口頭で公表する権利。譲渡権
著作者が他人に著作権を譲渡する権利。この権利を行使することで、著作権を持つ者が変わることができます。二次的著作物の利用権
既存の著作物を利用して新たな著作物を作成する権利。例えば、小説を基に映画を作る場合、この権利が必要になります。
これらの権利はそれぞれ独立しており、著作権者はこれらを個別に行使することができます。
上記の権利からわかるように、著作物の作者の権利を守り、作品が適切に利用されるように支援するのが著作権法の役割です。
著作権保護期間について
著作物には保護される期間があり、原則著作者の死後70年を過ぎると公用(パブリックドメイン)となり自由に使用することができます。
パブリックドメインとなった具体的な過去の作品には、芥川龍之介や太宰治や森鴎外などの死後70年経過している作家の小説、葛飾北斎の浮世絵などがあげられます。
※例外として、映画や無名/変名/団体名義の場合は、原則公表後70年とされています。
著作権侵害とはどういう場合のことを言うのか
ここまで著作権について解説してきましたが、続いて、近年よくニュースなどで話題になっている「著作権侵害」について解説していきます。
著作権侵害とは、前述した著作権を構成する様々な支分権を著作権の所有者以外が行使した場合に起こります。具体的には、他人が作った音楽を勝手にコピーして別の人に配ったり、ネットにアップロードしたりするのは、著作権侵害となります。
広告制作においてよくあるケースとしては、他人の著作物を「参考にして」別の創作物を制作した場合、著作権侵害にあたるケースがあります。いわゆる「パクり」か「類似しているだけ」なのか、という問題です。似ているだけでも著作権侵害に当たるのか。どの程度だったら「参考にして」いいのでしょうか。詳しく解説していきます。
似ている=著作権侵害!?
「参考に」しただけで単にアイデアやスタイルを模倣しただけでは通常は著作権侵害にはなりませんが、具体的な表現や構成が類似している場合は問題になることがあります。したがって、どの程度の創作が加えられているかが、法的な問題になるかどうかの鍵を握ります。つまり、「似ている」だけでは著作権侵害になるとは言い切れません。著作権侵害となる要素として、侵害したとされる作品に「依拠(いきょ)」したかどうか、が重要になります。
著作権における「依拠」とは、ある創作物が他の既存の著作物に基づいて制作された場合、その新しい創作物が元となる著作物にどの程度依存しているかという関係を指します。特に、新しい作品が元の作品の特定の表現やアイデア、スタイルなどに重く依拠している場合、著作権侵害のリスクが高まります。創作物が元の作品から十分な創造的距離を置いているかどうかが、著作権侵害の判断において重要になります。
しかし、「依拠されていないこと」を立証するのは非常に難しい問題です。なぜなら、作品間の類似性が偶然の一致なのか、あるいは意図的な模倣であるかを明らかにするには、具体的な証拠が必要だからです。特に、制作におけるプロセスは個々のクリエイターの内面的な動機や影響を追跡しにくく、新しい作品が既存の作品に依拠していないと断定するには、明確な創作の独立性を証明する必要があります。この立証の難しさから、著作権侵害の問題は、長期にわたる法的な争いに発展することもあります。
著作権侵害だと訴えられてしまったら…
もし著作権侵害で訴えられた場合、自分の作品が訴え元の作品に依拠していないことを立証するのはとても困難です。この証明が法的な争いにおいて鍵となりますが、それには専門的な知識を持った弁護士の助けが必要となり、かなりの資金が必要になることもあります。争う場合の資金的な体力と、立証のための証拠が用意できるかどうかで、争うかどうかの判断をすべきです。資金面や、立証の証拠が十分でない場合は、裁判に進む前に速やかに和解を図るなど、訴訟を取り下げる選択肢を検討することをお勧めします。著作権侵害の問題は、訴える側も訴えられた側のいずれも立証が難しく、前述の通り長期戦となることが多いため、期間が長かれば長いほどお金も労力もかかるため、迅速な対応が重要です。
まとめ
今回は知的財産権のひとつである著作権について簡単に紹介しました。著作権の正しい理解と適切な管理は、クリエイターの創作活動においてとても重要です。
誰もがクリエイターとして活動できる時代だからこそ、著作権侵害による訴訟リスクを避けるためには、著作物に関する権利とその使用について明確に理解し、適切な手続きを踏むことが求められます。もし著作権侵害で訴えられた場合は、迅速な対応が重要であり、争う前に和解の可能性を探ることも考慮すべきです。長引く訴訟には多大なコストと時間がかかるため、事前の予防策として著作権に関する知識を身につけ、常に法的な側面から創作活動を守ることがクリエイターにとって必要不可欠です。
文化の発展を目的とする権利・制度として生まれたのが著作権です。クリエイターや、自社、元請け企業をトラブルから守るためにも、しっかりと把握しておくことが大切です。