DM大賞受賞作品をデザイン会社の視点で振り返る
既に弊社ホームページでもご報告したとおり、第35回全日本DM大賞で「銀賞」及び「審査員特別賞」を受賞しました。クライアントであるシャコンヌ様には改めて御礼申し上げます。受賞に際し日頃お取引のあるお客様や協力会社様にもお祝いのお言葉を頂戴し嬉しく思っています。さて、このブログをお読みいただいている方の中には、なぜあのDMが受賞に至ったのか興味がお有りの方もいるのではないでしょうか。今回のコラムでは制作会社のデザイナー目線で振り返りたいと思いますのでお付き合いください。
1.DM大賞とは?
2.受賞DMの制作秘話
3.気になった他社の受賞作品 3選
4.今回のまとめ
DM大賞とは?
日本郵便株式会社が主催する「全日本DM大賞」(通称:DM大賞)はダイレクトメール(DM)の審査・表彰を通じて、DMの企画・表現技術の向上および広告メディアとしての役割・効果の紹介を図るとともに、DMの広告主、制作者にスポットを当てることでDMというメディアが広く認知され、多くの方に親しまれる存在となることを目的としています。(全日本DM大賞HPより引用)すなわち古くからあるDMという販促手法や、アイデアに競争力をもたせることで、DM自体の価値を上げるための取り組みの一環と言えるでしょう。もちろんその背景には郵便局の取扱量を増やしたいというビジネス的な思惑があるのでしょうが、業界的にも広く名が知れたアワードということで受賞した作品は大変参考になります。ちなみに、多くのアワードで必要な応募料・出品料などの費用が不要でとても良心的です。また今回の応募作品数を見ても712作品とそれほど多くないのでハードルは高くありません。「良いDMができた!」と思ったら気軽に応募ができるのは嬉しいですね。
受賞DMの制作秘話
当社が手掛けた婦人服と雑貨のセレクトショップ「chaconnee(シャコンヌ)」様のDMが「銀賞」および「審査員特別賞 クリエイティブ部門」に選ばれました。今回は弊社から「chaconnee(シャコンヌ)」様のDMを2点エントリーしたのですが、完成するまでエントリーの予定は全くありませんでした。仕上がりをとても気に入っていただいたので完成後クライアントに相談したところ「これなら絶対に受賞できると思う!」と逆に背中を押される形で応募に至ったというエピソードがあります。 今思うと感謝しかありません。また、今回特筆すべきなのはDMの反応率でしょう。80通の発送総数に対してレスポンス率50%(40件の来店)というのは極めて高い反応率と言えます。
ダイレクトメール(DM)の反応率目安 ※出典/JDMA(一般社団法人 日本ダイレクトメール協会)2018年度DMレポート第2弾
• 本人宛DMでの行動喚起率(話題にした、ネットで調べた、来店した等の行動)は22.4%
このDMは服飾のセレクトショップ「chaconnee(シャコンヌ)」のオープン5周年を迎えるオーナーが、感謝の気持ちを込めてロイヤルカスタマーに送ったものです。顧客単価が3万円程度と高く、来店してもらうことさえできれば見込み売上は想定できていました。そのような背景がありましたので、デザイナーとしての役割は至極シンプルで「とにかく質の高いものを創る」ということでした。DMの最大の特徴である風合いの違う紙を赤い糸で縫う製本方法は初回の打ち合わせ段階で決まっていました。普段からデザイナーの意見を尊重してもらえる関係性があったので、手作り感を面白がっていただけました。ちなみに紙面に多く使われている味のあるイラストはオーナー自身の手書きによるものです。パソコンでデザインされた所謂「デザイン」というよりはオーナーの温かみをそのまま伝えたいという思いで毎回お手伝いしています。クライアントの良さをストレートに伝えること、それもデザイナーの役割だと思っています。また、アクセントになっている赤い糸は5年前にお店がオープンする際、名刺にリボン結びで巻いて使用した思い出のものです。その思い出のアイテムを今回のDMでも使用しました。DMが届いたお客様は気づいていないかも知れませんが、オーナーの気持ちを汲んでお届けすることができたと思っています。表紙に使った帆布と赤い糸は市内にある布地の大型専門店で吟味し購入しました。また用紙は紙の専門店に出向いて風合いの異なる3種類をチョイス。印刷はすべて社内のレーザープリンターで行いました。デザイナー自らが針を使って糸を縫い、製本して完成したDMは、審査員にも評価いただき「審査委員特別賞 クリエイティブ部門」を同時受賞することができました。
〈実施効果〉
発送数 80通
レスポンス数 40件
CPR 4,250円(1回のレスポンスを得るための費用)
注文者数 50名
CPO 3,400円(1回の注文を得るための費用)
平均顧客単価 30,000円
レスポンス率 50%
顧客LTV 600,000円
気になった他社の受賞作品 3選
1:リクルートマーケティングパートナーズ「大企業に響いた2つの “スタサプENGLISH” DM」
まずは、今回のグランプリを受賞したこの作品に触れたいと思います。同社が展開するオンライン型学習プログラム「スタディサプリ ENGLISH 法人サービス」 は企業の人事部長への訴求が狙いでした。人事部長の関心事である“働き方改革” をテーマに、「英単語帳 DM」と現物の鰹節を同封した「鰹節 DM」を送付した結果、約150 社からの資料請求と32 社からサービスの申込みを獲得、資料請求率は約4%、前回比約40倍の大幅な反響を得られたということです。この施策の素晴らしい点は、「確実に担当者に届く仕掛け」と開封後の「話題喚起」にあると思いました。通常のありふれた紙のはがきでは他の書類に紛れたり、机の脇に置かれて後回しにされたりとスルーされる懸念があります。しかしこのサイズ感で「お届物」として名指しで受け取った担当者は、開封を遅らせることなくすぐに反応するでしょう。また、開封後はインパクトのある企画の面白さと相まって同じ部署の関係者にも見せやすく、その後の意思決定のスピードが増すように思います。制作物の完成度に加えて開封後の行動までもをデザインしたBtoB施策のお手本と言えるDMです。コロナ渦で商談の機会が減るなかでこのような綿密なコミュニケーション設計で商機を掴む施策として大変素晴らしいと思いました。
2:スギタプリディア「採用担当者へ内定者向けの体験型手紙キット送付で認知向上」
次も人間の心理を考えた施策を紹介します。企業にとって毎年の採用活動は時間と労力、資金をかけて行う大切な活動です。新卒1名あたりの採用コストは70〜80万円と言われており今後も上昇傾向です。そんな中で企業の立場としては内定辞退は是が非でも避けたいところ。そのようなインサイトで大手企業の人事部宛に送付された「内定者フォローDM」は自社への入社を後押しする施策として効果を発揮しました。内定を出した学生にいち早く社名と名前の入った名刺を送り帰属意識を醸成する企画で、内定者ごとに印字するメッセージを変えられる仕組みはとてもユニークです。施策の結果、250万円の受注があったということで、なんとかして内定辞退を防ぎたいと考える人事担当者の思いに響いた成果と言えるでしょう。また名刺が飛び出る特殊な形状は特許取得済で、成果を感じてもらえれば次年度の受注にもつながる可能性があり、繰り返し提案できる企画としても優れています。
3:力の源ホールディングス「入会率45.8% 一風堂公式アプリ入会促進DM」
3点目はとてもわかり易い施策を紹介します。有名ラーメン店「一風堂」を運営している力の源ホールディングスは紙のポイントカードからアプリへの移行を促したいという思いがありました。そこで、移行前のプレミアム会員に対して特別な特典付きのDMを発送。その特典とは、DMを受け取った会員はアプリの登録段階で一気にラーメン 45 杯分に換算されるポイントが付与され、46 杯目からスタートできるというものだ。(1年以内に60杯達成でプレミアムメンバーに昇格し、1年間ラーメンが550円(税込)で食べられる)この非常にわかり易い「おいしい」特典はお店の顧客層にヒットし、アプリ登録率は約半数の45.75%という高い数字を叩き出したとのこと。メリットがわかり易い特典を用意し早い時期にデジタルポイントカードに移行させることで、よりこまめで円滑なコミュニケーション、さらには経費削減にもつながっていると推測します。DM大賞の応募作でありながらデジタルへの移行を促す企画で受賞している点も興味深く拝見しました。デジタルへとつなぐ橋渡しの役割がDMにはあります。
今回のまとめ
いかがでしたでしょうか?今回は第35回 全日本DM大賞の受賞作についてデザイナー目線で紹介しました。受賞した作品事例を見て共通していることは、DMの施策を成功させるためには、DMを受け取ったターゲットの心理や行動をいかに鮮明にイメージできるかが鍵となるということです。また世の中がデジタルシフトしていくなかで、紙のDMがどのような役割を担っていくのか、そのヒントがあったように思います。世の中に「広く告げる」ものが広告ですが、その中でDMは独自のポジションを取っており「個人」に宛てる特別な贈り物です。誰に・いつ・どんな内容を・どんな特典をつけて送るのかをよく考えて制作しましょう。効果的なDM施策について詳しく知りたいという方はお気軽にお問い合わせください。
> 関連ページ
第35回全日本DM大賞で「銀賞」及び「審査員特別賞」を受賞
https://s-modern.com/column/1542/
> 受賞作品の詳細
DMデザイン|シャコンヌ様 ※DM大賞 「銀賞」及び「審査員特別賞」同時受賞
https://s-modern.com/works/870/DMデザイン|シャコンヌ様 ※DM大賞 「入選」
https://s-modern.com/column/339/