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マーケティングと行動心理学 その3―返報性の原理―

人に何かをしてもらったら、お返しをしないと申し訳ないといった気持ちになりませんか?これは「返報性の原理」という心理効果が働いています。この心理は、人が本来持っている義理や人情といったものに似た、ごく自然な現象です。相手との関係性によって感じ方はそれぞれですが、ただ単に「うれしい」「ありがたい」と感じる場合もあれば、一方的に施しを受けたままではマナーに反していると考えたりする場合もあります。特に日本では「お礼・返礼」の文化が根付いていますから、そういった教育を受けた人がほとんどだと思います。受け取った恩を、時にはそれ以上の恩で返したいと感じることも。ビジネスの現場でもよく使われるこの効果を今回はご紹介します。

1. 返報性の原理とは?
2. ビジネスシーンでの使用例
3. 使用上の注意点
4. 今回のまとめ

返報性の原理とは?

社会心理学者であるロバート・B・チャルディーニ氏の著書「影響力の武器」で紹介されたことで話題となった心理効果で、「人は何かをもらうと、自分も相手に何かを返すべきと思う」という心理現象を指すものです。身近でたとえるなら、バレンタインデーのイベントが思い浮かびます。チョコレートをもらったら、お返しをしなきゃ悪い気持ちになりますよね?たとえ義理だとわかっていても「好意」を受け取った以上は「好意」を返そうと感じます。他にも誕生日プレゼントをもらったら相手の誕生日にもプレゼントを用意したくなる、結婚式に呼ばれたから自分の結婚式にも呼ばなければと考える、といった心理的な反応が「返報性の原理」となります。しかしこの返報性の原理、なにも「好意」に限った話ではなく、その内容から大きく4つに分類されます。

好意の返報性/受けた好意を返したくなる心理。
敵意の返報性/向けられた敵意を返したくなる心理。
譲歩の返報性/相手が譲ってくれたのなら自分も譲ってあげようという心理。
自己開示の返報性/相手がオープンに接してくれると、自分も心を開きやすくなる心理。

たとえ「返報性の原理」という言葉を知らなかったとしても、仕事や恋愛・人間関係において、これらは無意識でしているはずです。それぐらい私達に馴染んだ効果。だからこそ強力なのです。

ビジネスシーンでの使用例

返報性の原理を使った代表的なマーケティングは「無料お試し」です。わかりやすい例だと、スーパーマーケットなどの試食コーナーがあります。店員から勧められて試食すると、「食べさせてもらったのだから、買わないと悪いかな」という気持ちになりますよね?「無償で商品をもらう」ことによって返報性の原理が働き、お返しをしたい・商品を購入したいという心理が生じているわけです。
洋服売り場での試着も、返報性の原理が働きやすいシーンです。店員によって時間をかけて接客されたことや、購入する前の商品を着させてもらったことなどが「借り」となり、「せっかく試着したのだから、買ってしまおう」という気が起こりやすくなります。更に店員から非常に丁寧な接客を受け、サイズ違いを何度も持ってきてもらうなど、「借り」が大きくなればなるほど「やっぱり買いません」とは言い出しづらくなってしまいます。
また、行き過ぎた例として、一昔前ですが新聞の勧誘があげられます。「洗剤をプレゼントするから、新聞を取ってくれませんか?」という攻撃です。相手に有無を言わせずプレゼント攻撃をすれば、その後の要求が通りやすくなる。これも返報性の原理といえます。

使用上の注意点

先程紹介した新聞の勧誘ですが、もし恋愛に置き換えたとしたら、プレゼント攻撃や親切を与え続ければ、たとえ嫌われていたとしても、義務感からデートの誘いに乗ってくれるということになります。考えてみるととても恐ろしい原理ですね。しかしこんなこと実際には長続きしません。なぜなら「好意」を受ける前に「好意」を受け取らないで済むよう、事前に避けられるようになるからです。このように、返報性の原理は、使い方を誤るとトラブルのもとになったり、むしろ逆効果になったりする恐れがあるため、実行するには以下の2つのことに注意する必要があります。

見返りを求めすぎない

見返りを求めすぎると、相手に下心を感じ取られ、返報性の原理が働きにくくなることがあります。「貸し」をつくるといっても、見返りを期待しすぎず、純粋に「喜んでもらいたい」という気持ちが大切です。

高価過ぎるものをあげない

関係性に見合わないようなものや、相手が求めていないものを贈ってしまうと、「重い」と思われたり、警戒されてしまい逆効果になることがあります。
このように、返報性の原理に効果を期待しすぎると、相手の気持ちを無視した行動をとることになりかねません。相手を不快にさせないことが大前提であることを忘れてはいけません。

今回のまとめ

人間の行動は常に心理に基づいて行われていると言っても過言ではありません。今回は日本人にとっては日常的に根付いている「受けた恩は返したい」という社会の中で培われた本能的な心理である「返報性の原理」を紹介しました。こういった行動心理学を今後のマーケティングプランに活かしてみてはいかがでしょうか?

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