デザインを言語化する力①デザインコンセプト

「デザインに説明は必要か」これはデザインに関わる人の中でも意見が割れるテーマですが、クライアントワークである以上、クライアントにデザインを言語化することは最重要であると考えます。
私も学生時代は「デザインを説明するなんて野暮では?」と生意気なことを思っていましたが、キャリアを重ねるごとにデザインを言語化することの大切さをより強く感じるようになりました。クライアントワークでは多くの場合、デザインに関して専門でない方から依頼を受けます。そのため、デザインを見るだけでは良し悪しを判断できないことが多くあります。そうなると、クライアントの担当者の好き嫌いで判断されてしまったり、あとで何度も修正することになったりと、お互いに手間も時間もかかることになります。しかし、相手に言葉でデザインをきちんと説明できれば、目指す方向性が定まり、スムーズな進行ができるはずです。
今回は、クライアントが求めるデザインを提案し、またエンドユーザーにとっての最適なデザイン、そして自分が一番良いと思うデザインを世に出すために必要な力、「デザインを言語化する力」についてお話したいと思います。
1. コンセプト提案のポイント
2. コンセプトの作り方
3. まとめ
1.コンセプト提案のポイント
デザインをはじめる前に、まずは「デザインコンセプト」を立てるかと思います。デザインにおいてコンセプトとは、“地図”だといいます。途中で方向性を見失いそうになったとき、コンセプトに立ち戻ることで自分の立ち位置を確かめるための心の拠り所といえます。
今回は、「デザインを言語化する力」第一回、コンセプト制作についてのポイントを紹介します。
①クライアントの思いを読み取る
コンセプトを立てる際、まず最初にクライアントに対してすべきこと、それはクライアントの思いを読み取ること。最初のキックオフミーティングでのヒアリングではこれが一番重要です。ここを怠ってしまうと、後々、修正が頻発したりやり直しが発生する恐れがあります。これを防ぐため、当社ではキックオフミーティングでなるべくデザイナーも同行してもらうようにしています。お客様の“思い”の部分を直接デザイナーにも感じてもらい、その上でデザインコンセプトを立案してもらうことで、お客様の要望に沿ったデザインを提案するためです。デザイナーが同行できない場合は、営業やディレクターなどの担当者がしっかりとヒアリングし、デザイナーへ伝えることが重要です。
②デザインコンセプトの根拠を言葉で説明できるように
制作側は、自分のデザインに対して根拠が論理的に説明できると、クライアントの評価の材料になります。デザインというのは、主観的な要素が強く、クライアントの決済権のある上長の好き嫌いで判断されることが多くあります。担当者が「なぜそのデザインが良いか」を理解し、上司やプロジェクトのメンバーを説得するための材料とするために、根拠をもってデザインすることが大切です。また、デザインに対しクライアントから批判的な評価を受けた際、根拠を説明することで、批判的な評価が覆る可能性もあります。
③相手が理解できる言葉で伝える
「デザインコンセプト」は、デザイナ―の考えを言語化したものです。それと同時に、クライアントが自分の求めるものがデザイナーに伝わっているかを確認するためのものでもあります。制作側が自信を持って提案したデザインも、クライアントから却下されることがありますよね。それ、デザインが悪いのではなく、伝え方が悪い可能性があります。プレゼンで一番大切なことは、「相手が求めることに答えること」です。自分が伝えたいことは二の次に、ということを頭においておきましょう。デザインに関わる人なら見に覚えのある方も多いのではないでしょうか。「良いクリエイティブができた!」と思うと自分が伝えたいこと、こだわったところ、見てほしいところを先行して話してしまうことがあります。クライアントは「自分が依頼したことにどう応えてくれたか」を知りたいのです。間違っても専門用語や横文字を必要以上に使ってマウントを取らないように心がけましょう。おすすめは「クライアントが使っていた言葉を使う」です。依頼時にクライアントが使っていた言葉をなるべく使うようにし、共通言語でコニュニケーションを取ると伝わりやすくなります。
2.コンセプトの作り方
デザインを言語化するために最初に必要なもの「デザインコンセプト」を作るための具体的なコツをご紹介します。コンセプトを表現する技法はさまざまですが、プロのライターでなくてもコンセプトを簡単につくることができる鉄板の“型”があります。
①ふたつの動詞をつなげる「動詞型」
たとえば「Amazon Go」の店舗コンセプト「Grab(つかむ) & Go(行く)」がこの動詞型にあたります。Amazon Goは、店内に設置されたAIカメラにより、無人決済システムを実現しました。まさに「商品を掴んで(Grab)&そのまま店から出て行く(Go)」のサービスですね。この「動詞型」は商品やサービスの内容がどんなものか、ユーザーが想像しやすいのが特長です。しかし、抽象的な動詞だととたんにぼやけてしまうので、目的や実現方法が明確な場合に有効です。
②信頼感のある「同義型」
「同義型」とは、「Soft & Warm」のようにイメージが近い言葉を「&」でつなげる方法です。個人のイメージにブレが無いため、安定感があります。ただ、安定感がある反面、キャッチーさには欠けるため、表現に新規性が乏しい印象になる可能性があります。デザインを出したときに相手のイメージしていたものとのギャップが生じにくいため、初めてのクライアントとの案件におすすめの型です。
③どんな言葉も魅力的にみせる?「対語型」
「対語型」とは、「Traditional & Modern(伝統的で現代的)」のように正反対の言葉を「&」でつなげる型です。相反する言葉を組み合わせると聞こえの良い魅力的な言葉になることが多くあります。「High & Low」「Boys & Girls」「Sweet & Bitter」などキャッチーな言葉を作りやすいのがこの型です。この対語型は正反対の言葉を使っているがゆえに実現が難しいことが多いです。実現が困難なことは魅力的に見えますよね。対語型のコンセプトはクライアントの期待値を超えることが期待できますが、最終的にできあがるデザインのクオリティも期待値を超えなくてはなりません。安易に使いすぎると「コンセプトはいいけど…」ということになりかねないので注意が必要です。
3. まとめ
いかがでしたでしょうか。「デザインを言語化する力」の重要性について話しました。デザインを見ただけでは判断しづらい際、クライアントの評価の材料として、デザインを言語化するスキルは、クライアントとの良好なコミュニケーションや、優れた提案のために必要不可欠です。制作側はクライアントの思いを理解し、根拠を持ってデザインコンセプトを言語化することで、スムーズにプロジェクトを進めることができます。